国連憲章と紛争予防
国連憲章第1条には、平和への脅威を予防し、除去するに有効な手段をとることが、国連の目的として明示されている。一般に広く知られてないが、憲章第97条から第99条に基く事務総長の役割を通じ、戦争を和平に導く舞台裏外交が展開されてきた。
冷戦後は、安全保障理事会の機能を麻痺させ、国際社会の平和維持に対する国連の効果的活動を妨げた東西イデオロギーの対立がなくなり、国連自身が本来の力を発揮できる可能性が生まれたが、同時に、憲章に規定されない国内紛争や民族対立などの問題に直面した。
ガリ前事務総長は紛争予防を、「紛争が当事者間で発生するのを予防し、それが武力衝突に発展するのを予防し、武力衝突が発生したらそれが拡大するのを予防すること」と定義した。憲章第6章第33条は、紛争予防を展開する上のメニューと採り得る手段を記載している。
2001年6月の国連事務局による事務総長宛て報告書は、加盟国の役割を強調し、紛争予防行動の基盤を第6章に求めている。この報告書は、加盟国の紛争予防の責任と市民社会の役割を重要視している。これは紛争の長期的・短期的要因に対処するには包括的な対応策が必要との認識に基く。長期的な要因とは経済発展、民主政治、平等原則、人権保護といった構造的なガバナンス(統治)の問題を指し、短期的な要因としては紛争当事者間の利害対立、心理的摩擦、偶発的事象といった現実面の問題を指す。
したがって、紛争予防と持続的かつ公正な開発は密接に関連しており、その行動を実行する際には国連以外の国際機関、民間部門、市民社会の協力も必要なのである。
国連の紛争予防の教訓
| 国連東チモール暫定統治機構民政官としてコバリマ県知事を務めた 当センターの伊勢崎理事(右から三番目) |
国連が紛争予防活動を展開する上で、メディアとの関係が大事だ。報道で注目されない段階で行う紛争予防の成功率は高い。事態悪化以前に、当事者の面子をつぶさずに、事務総長が個別に意見聴取し、解決策を提示し、緊張緩和をもたらす。交渉が公開されると、交渉の柔軟性が失われることもあり、当事者は「静かな外交」を好む。しかし国際社会では透明性が要求され、アカウンタビリティが求められる。調停についての情報公開手法の確立が急務だ。
早期警報により紛争発生を予期しても、各国、とりわけ主要国の政治的意思の欠如により、紛争を予防できないこともある。1994年から95年にかけてのザイール東部での人権侵害を事務総長は繰り返し告発したが、結局、安保理は動かなかった。99年のNATO空爆を招いたコソボ紛争も、かなり前から国連は警報を発したが、予防できなかった。早期警報制度が存在しても、主要国が紛争予防に立ち上がるかは、そのときの政治状況に左右される。紛争予防を有効に実施するには、早期警報システムのみならず、加盟国の紛争予防に対する政治的意志の喚起が必要だ。
介入のタイミングの見極めも大切である。当事者の武力解決の意思が強い場合、平和的解決は成立しない。早すぎても遅すぎても良くない。イギリスとアルゼンチンのフォークランド紛争の調停では、当時のデクエヤル事務総長は調停のタイミングを慎重に計って行動し、外交レベルの合意を取り付けたが、結果的にアルゼンチン政府の妥協案拒否に陥った。紛争予防は、どう実行に移すか、当事者を何時どう説得するかをケースごとに判断しなければならない。その意味で、それはサイエンスというよりアートの色彩が強い。