ムスリム・シンハラ衝突事件と和平交渉 | 2001/5/21 | 今回は4月から5月にかけてのスリランカ政治情勢のなかで特に注目されているムスリム・シンハラ衝突事件と和平交渉を回る環境変化の2点に焦点をあて、報告する。 1. ムスリムとシンハラ人の衝突事件について 5月2日、スリランカ中央部キャンディ市(Kandy)に近いマワネラ町(Mawanella)でムスリムとシンハラ人の衝突事件が発生。この事件で2名が死亡、11名が負傷した。マワネラ町一帯の商店や自動車などが襲撃、焼き討ちの被害を受けた。政府は治安回復のために警察部隊を派遣するとともに、マワネラ町一帯に外出禁止令を発令した。一部の報道によると現職大臣(Hon. Mahipala Herath, Minister of Rural Industrial Development, People’s Alliance所属)が事件にかかわっていたとの情報もあるが、事件の真相については現在捜査が進められている。 5月4日正午過ぎ、コロンボ市北部でムスリムと警官隊の衝突が発生。コロンボ10区および12区の商店、バス、自動車などが投石などの被害を受けた。これを受けて、政府は南西部州一帯に同日午後6時から5日午前6時までの外出禁止令を発令した。政府は「この外出禁止令の目的は、暴動の拡大を防止し、通常の市民生活を回復するためのものであり、市民はうわさなどに惑わされることなく、落ち着いてほしい。」との声明を発表した。この衝突事件は、5月2日にマワネラ町(Mawanella)で起きたムスリムとシンハラ人の衝突に呼応したものであると見られている。 これらの事件によりシンハラ人対タミル人という対立の構図だけではない、スリランカ社会の複雑さが改めて浮き彫りになった。事件後、各方面から様々な動きが見られたが、政治方面の反応としては、連立与党「人民連合(People’s Alliance; PA)」に参加する「スリランカ・ムスリム会議(The Sri Lanka Muslim Congress; SLMC)」のハキーム党首(Mr. Rauff Hakeem)が、事件の徹底的な調査を大統領に要請し、十分な調査が行われなかった場合、同党は与党連合から離脱も辞さない、との声明を発表した。市民社会の反応としては、ムスリム学生会議が新聞広告を出し、「シンハラ人とムスリムは過去何世紀もの間仲良く共存してきた。一部の暴力的勢力のためにわれわれの友好関係が悪影響を受けないようにしよう。」と呼びかけた。 今回の二つの衝突事件の真相はまだ捜査段階にあり、全貌が明らかになっていないが、シンハラ人とムスリムの関係が変化を見せ始めたのは昨年10月の総選挙のあたりからである。同選挙ではムスリム系2政党(スリランカ・ムスリム会議および国民統一連合[National Unity Alliance; NUA])が躍進し7議席から合計12議席へと議席数を伸ばし(スリランカ国会の議席数は225)、連立与党「人民連合」に参加した。ムスリム系政党の与党参加で「人民連合」は辛うじて過半数を獲得できた。これによりムスリム系政党は、与党内でキャスティングボードを握る第三勢力として発言力が高まった。また、通商大臣や東部開発・復興大臣などの重要ポストにもムスリム系議員が就き、ムスリム・コミュニティの政治的影響力が拡大した。従来から経済的影響力の強かったムスリム・コミュニティが政治的にも影響力を増してきたことに関し危機感を募らせるシンハラ系保守派も多い。 また、人口の面でもムスリムの拡大が進んでいるとの予測があり、シンハラ系保守派はさらに神経質になりつつある。1980年の国勢調査においてムスリムは総人口の7%弱に過ぎなかったが、多産・大家族傾向のムスリム・コミュニティは大幅に人口比が伸びているであろうと予想されている。来月からスリランカでは20年ぶりの国勢調査が実施されるが、その結果は直接・間接的に両民族間の関係に影響を与えるであろう。 Population by ethnic groups Ethnic group | Number (thousands) | Per cent | | Sinhalese | 5,426 | 72.0 | | Sri Lanka Tamils | 1,424 | 11.2 | | Indian Tamils | 1,175 | 9.3 | | Sri Lanka Moors (Muslim) | 828 | 6.5 | | Indian Moors (Muslim) | 27 | 0.2 | | Burghers and Eurasians | 45 | 0.4 | | Malays | 43 | 0.3 | | Others | 16 | 0.1 | | Total | 12,689 | 100.0 | 1.和平交渉を回る環境変化について 和平交渉を回る環境は2年前と違っており、ノルウェーの仲介に対し、政府は前向きな姿勢を示しているため、交渉が進む可能性がある。現在、スリランカ政府が和平に進まざるを得ない理由として、経済、軍事、政治的理由を挙げることができる。1)経済的理由としては、政府の公式発表とは違い、実際にはスリランカ経済は後退が続いており、IMFからも経済改革と増税の圧力がかかっていて、このまま多額のコストが必要な戦争を継続できない状況にある。2)軍事的理由としては4月25日から28日に行なわれた政府軍の大規模攻勢(アグニ・キーラ1作戦)が失敗に終わり、これ以上軍事的な解決は無理と政府も認識した。また今回の戦闘で犠牲者と消耗が多く、新たな大規模攻撃をするには双方少なくとも半年間立直しの時間が必要であるといわれる。3)政治的理由としては6月に野党UNPが不信任案を国会に提出する動きがあり、不信任案の可決にはタミール政党の協力が必要となるため、与党PAはこれを防ぐよう、タミル人の支持するLTTEに対しても柔軟な姿勢で臨む必要に迫られている。 以上より今回の和平はこれまでに比べ、実現可能性が大きい環境にあるといえる。今後、停戦合意までは達成される可能性が高いだろう。しかしその後、紛争の政治的解決において多くの問題に合意できず、4~5ヶ月後には和平プロセスは暗礁に乗り上げ、停滞する危険性が高い。 シンハラ政府側もLTTE側も、長年の戦闘から敵への強い不信と過去の紛争被害の記憶を持っており、現実に信頼醸成を行なう事は不可能になっている。和平進展にはむしろ両者の掛け橋として、ノルウェーの仲介に対するスリランカ政府から信頼とLTTEからの信頼の双方を高めることが現実的であるといえる。 以上 |