「カンボジアの交通事情について」 | 2003/5/30 | カンボジアの市民の足となっているのはバイクタクシーと呼ばれる乗り物である。スクーターの後ろがいわば「座席」となっている乗り物で、プノンペンに於いては、どこでも、どの時間帯でも客引きをするドライバーを見つけることが出来る。 「座席」に定員はなく、中にはドライバーを含めて5人乗りという状態も珍しくはない。乗客が大人だけであっても3人乗りは普通である。ヘルメット着用率は非常に低く、更にはバイクにミラーが着いているものを見つけるほうが難しい。「ミラー付きバイクは盗難にあう」というのがその理由のようである。 交通法規はもちろん存在しているが、道路の両端では大概、進行方向に対して逆走することが通常で、道路を渡るのも一苦労である。カンボジアは日本とは逆で右側通行であるため、「右を見て、左を見て横断歩道を渡る」のではなく、「左を見て、右を見て、左に心持ち注意を払いながら、なるべく右に神経を集中させて、車道をゆっくりと横切りはじめる」というのが普段私が行っている道路の渡り方である。「ゆっくりと」というところが大切で、余り急いで渡ってしまうと車やバイクと衝突する可能性が高い。赴任した当初のころは道路を渡ることさえままならなかったのだが、人間とは恐ろしいもので現在では慣れてしまっている。昨年11月にASEANサミットが開催されたこともあり、プノンペン市内にも信号が出来始めた。しかし、まだ数えるほどしか存在していない。一応警察官等も立って検問を行っているが、検問というよりは罰金とワイロの徴収が目的のようにも感じ、その効果の程は定かではない。 歩道に目を向けてみる。歩道はもちろん存在していて、結構幅も広い。ところが私が普段歩道を歩くことはあまりない。午後5時くらいになると、屋台が立ち並び、歩道は店舗スペースとして翌朝まで使用されてしまうため、「歩道」が存在しなくなる。「歩くことがない」というよりは「歩くことが出来ない」というのが正しい。プノンペンの人はあまり歩かない。厳しい暑さのせいもあるだろうが、歩道が歩くことに適しているスペースではないというのも一理あるのではないかと思う。ちょっとした距離でもモータータクシーを利用する。このモータータクシーは便利で、短距離でも嫌な顔をされることなく利用できる。料金も非常に安価で、プノンペン市内なら2500リエル(現在1ドル=4010リエル)を上限にどこへでも移動できる。値段は交渉制である。概略を簡潔に説明しただけでもこの通りであるから、当然ながら交通事故の発生は非常に高い。交通事故を見ない日は数えるほどしかない。 事故があると一目瞭然、ものすごい人だかりなのである。事故にあった人から円を描くように野次馬が集まる。事故の大きさによって人だかりの大きさもまちまちである。被害者を救助するというよりは、単に見学をしている場合が多く、その感覚が非常に恐ろしい。先日はなにやら外が騒がしく、ホテルの屋上から外を見ると車の衝突事故があった。1名亡くなったそうである。 ここ1ヶ月だけでも目の前で比較的大きな交通事故が2回起っている。1度目は夜、車で地方からプノンペンに向かって走行していた車両が、牛と衝突した。人間も牛も無事ではあったが車の前方は凹み、なにやら液体が流れ出ていた。ガソリンの可能性もあったのだが、もっと側で事故のあとをみようと集まってきた野次馬の中にはタバコに火をつけようとした者すらいた。 また4月の末頃にはプノンペン市内で食事に出かけていた際、目の前でモーターバイクと車が衝突し、モーターバイクの運転手が地面に投げ出され、頭を強く打ち、脳震盪を起こしたようであった。知り合いの警察官に通報したところ、事故の話よりも挨拶を長々とされて反応に困ってしまった。私自身も、バイクで転倒したことが2、3回あるが、幸いにも大きな交通事故にあったことはない。が、それも時間の問題なのではと危惧している。 カンボジアの政治事情・治安はどうかという質問は多く聞かれる。政治的動乱、暴動の発生はあるが「日常」ではない。交通事故こそが非常に身近な危険なのではないのかと考える。注意すべきは、交通事故が「日常」になってしまってきており、危険を察知する感覚が薄れていくことだと感じている。 報告者:鳴海ゆきの |