2003/12/2 | 除隊兵士の社会復帰支援プロジェクト | | 日本紛争予防センター アフガニスタン代表 菊池 宣洋
| 当センターは、本年11月より6ヶ月間の予定で、新たに「除隊兵士の社会復帰支援プロジェクト」を開始しました。「除隊兵士」とは、普段は村落に生活し、時に応じて自衛のために武器をとる「非職業兵士」を指しますが、現在、全国的内戦状態は終熄し、戦闘に参加していないことから便宜的に「除隊兵士」としています。ただし、これらの人々の多くは現在も武器を所有し、有事の際にはいつでも戦闘に参加できる状態にあります。今回のプロジェクトでは、これまでの経験や反省点を生かし、特に以下の3点を見直しました。 (1) 対象者・対象地域の選択: これまで、当センターは「除隊兵士の社会復帰支援プロジェクト(職業訓練)」をカブール市内で行なってきましたが、除隊兵士の数が十分に確保できず、それ以外の参加者(帰還難民、国内避難民)が多く含まれていました。他方、カブール市周辺の農村部には、対ソ連戦や対タリバン戦を戦ったムジャヒディン(イスラム聖戦士)が多く居住しています。これらの地域では、特にタリバン侵攻により住居やインフラが破壊されたうえに、ここ10年の水不足も加わり農業が立ち行かなくなったため、経済的に貧しく、定職のない多数のムジャヒディンが居住しています。今回、プロジェクト実施地域を選定する際には、カブール市北方の農村部数ヶ所で、現地視察や聞き取り調査を行ないました。その結果、カブール市より北に約35km(車で40分ほど)に位置するカラカン地区を対象地域に決定しました。 カラカン地区は人口約47,000人で26ヶ村からなる、タジク人のコミュニティーです。対タリバン戦では北部同盟の傘下で、ほとんどの男性がムジャヒディンとして戦い、激戦により特に大きな被害を受けた地域の一つです。タリバン侵攻時には、全ての住民が村々を離れ、一部は山間部に潜んでタリバンと戦い、その他は難民や国内避難民となりました。現在、コミュニティーの人口はタリバン侵攻前の約6割ほどですが、難民や国内避難民の帰還が続いているそうです。しかし、帰還しても生活の糧が得られないことから、再度村を離れる者がほとんどとのことです。農業が不振であるのに加え、タリバン侵攻時に水道や電気供給設備も破壊され、現在も供給が遮断されたままです。さらに失業率は約60%で、コミュニティー内でも大きな懸念の一つとなっています。カラカン地区をプロジェクト実施地域に選んだ理由は、ムジャヒディンの数が多いこと、タリバン侵攻により大きな被害を受けたこと、地域復興の中で彼らの社会復帰や参加を望むコミュニティーの声が強かったことです。また、同地域にはタリバン侵攻時に破壊された家屋が多く残ることから、これらの修復に必要とされる職種が当センターの経験ある職業訓練分野(木材加工及び金属加工)と合致したこと、そしてプロジェクトに対するコミュニティー側の理解や強い協力姿勢が得られたことも大きな選択理由です。 (2) 総合的・複合的なプロジェクト内容: 上記で述べたように、貧しい経済状況や厳しい生活環境にありながら、自らの生活向上や地域の発展のためになす術を持たない除隊兵士に対し、当センターは今回のプロジェクトの中で、精神的、物理的な支援を二本柱としています。精神面での支援としては、平和教育を行い、平和や協力が個人の生活や地域社会の発展にもたらす恩恵について話を進める中で、参加者がこれらの重要性に対する理解を深め、これらを実現するために何が出来るか、何をすれば良いかを考える機会を提供します。他方、物理的な支援としては、木材加工や金属加工の職業訓練を行い、自らの生計を支え、社会発展に役立つ技能を修得する機会を提供します。 また、当センターのプロジェクトでは知識や技術の習得とその実践のバランスを重視しています。精神面での支援については、平和教育で学んだ知識を実践する機会として、ゲスト・スピーカーとの対話や地域奉仕活動をプロジェクトに取り入れています。ゲスト・スピーカーとの対話では、毎週外部よりスピーカーを招き、短いスピーチ(15分ほど)をしてもらった後、参加者がそれに対し質問や意見を述べたり、これまで平和教育やプロジェクト全体を通じて学んできたことを紹介したりするものです。スピーカーにはこれまで地区の行政長官やシューラ(伝統的な意思決定機関、長老会議)のメンバーなど地域コミュニティー内の人々を招いてきましたが、今後は様々な分野で活動する現地・国際NGO、アフガニスタン政府機関、各国政府機関などからも多くの人々を招く予定です。平和構築、地域社会開発、人権、女性参加など幅広い話題に関する各スピーカーの経験や苦労などを話してもらう中で、プロジェクト参加者や実施主体である私たち自身が、アフガニスタンの人々のために様々な分野で働く、異なる立場の人々の意見を聞き、平和や協力の重要性に対する理解を深められたらと思います。また、地域奉仕活動では、毎週決められた時間内(1時間ほど)で地域の清掃活動(ゴミ拾いや壁塗り)や地域内でも特に貧しい人々に対する手助け(畑の草むしり・地均し、水汲みなど)を行ないます。他方、物理的な支援(職業訓練)の実践としては、木材加工や金属加工の実地訓練として、破壊された家屋の修復や製作した家具の提供を行ないます。 以上の活動に加え、度重なる戦争や経済的事情により、多くのプロジェクト参加者が小学校教育課程を終了していない事から、社会生活に有用な識字教育や算数教育も毎日(1時間弱)行なっています。また、毎日のプロジェクトの初めには朝礼やラジオ体操など日本的な要素も取り入れています(参加者の間では、ラジオ体操はなかなか好評のようです)。 (3) 長期的・持続的な社会復帰を目指した、除隊兵士と地域コミュニティーとの良好な関係作り: 職業訓練などを通じて、除隊兵士が社会復帰に必要な技術を身に付け、その後社会復帰のために努力しても、受け入れ側にそれを受け入れる土壌がなければ、なかなかうまくいきません。つまり、除隊兵士の持続的な社会復帰を実現するためには、除隊兵士に対する支援ばかりではなく、彼らが復帰するコミュニティー側の受け入れ態勢を整えることも必要です。除隊兵士が社会復帰に必要な技能を身に付け、彼らの準備が整ったとしても、このような土壌がなく、うまく社会に溶け込めなければ、新参者や半端ものとして排除されたり、受け入れ社会との軋轢が生じたりする恐れもあります(この様な実際の社会復帰に関しては、プロジェクト終了後、除隊兵士自身の自助努力にまかせる支援プロジェクトも少なくありません)。そこで、当センターは今回のプロジェクト(特に破壊された家屋の修復作業などの実地職業訓練や地域奉仕活動)を通じ、参加する除隊兵士が社会貢献の大切さや喜びを感じると同時に、これらの活動が地域コミュニティーの人々から認知され、理解され、賞賛を受けることで、除隊兵士の社会復帰に対する地域の期待が高まり、喜んで受け入れられるような関係を築くことを目指しています。 プロジェクトが始まって1週間目、職業訓練に使う機材を保管するコンテナの金属錠を、夜間、何者かが金のこぎりで切ろうとした事件が起こりました。幸い、錠のアームの部分に半分ほど切り目が入っただけで済みましたが、これを聞きつけたプロジェクト参加者2、3名が翌朝、警備のためと銃(カラシニコフ)を持って集まりました。気持ちはありがたかったのですが、平和教育を行なっている手前、「銃はやめてくれ」と言い聞かせ、その代わりにコンテナの扉に張り紙をすることにしました。張り紙には、現地語で「金属錠の切り方が正しくありません。当プロジェクトの金属加工コースに参加しませんか」と書きました。洒落のつもりで書いた張り紙がどれだけ理解されたかは分かりませんが、事件を聞きつけた地域の行政長官も警察担当者と駆けつけ、地域ぐるみでプロジェクト施設の警備を強化すると約束してくれました。錠を切ろうとした人、これに対し銃を持参してコンテナを守ろうとしたプロジェクト参加者、事件を聞きつけて集まった行政長官や地域の人々(一部、野次馬)のことを考えると、我々が始めた小さなプロジェクトがこの小さな村落で大きな関心となっていることは嬉しい限りです。さらには、本プロジェクトが人々の大きな希望となり、大きな成果に少しでもつながる事を希望します。 |