イスラム教‘ハッジ’(大巡礼)の教義と現実
2003/2/20

 イスラム教五行(信仰の告白、礼拝、断食、喜捨、巡礼)の一つであり、信徒にとって最も重要な儀式と言われるハッジは、イスラム暦12月7日~10日(西暦2月7日~10日)にかけて行われる。その後の3日間は‘イート’と言われる祝日となる。‘イート’とはキリスト教で言う復活祭、日本では正月と盆が重なったような意味合いであろうか、多くの人がモスクに行き祈りを捧げ、親類縁者がそれぞれの家庭に集まり食事を中心に団欒をしながら過ごす期間であり、日本、中国のように、主人が従業員に、年長者は年少者に祝儀を渡し、富めるものは貧しき者に施しをする習慣があるようだ。

イート期間に近所の政府高官の庭で屠殺した牛肉を貰いに集まった
生活困窮者の群れと、 それを力ずくで追い払おうとする兵士

 自らの死期を悟ったムホメットがメディナ(ムホメットは生誕地、メッカを追われメディナの町に逃れた)からメッカへ12万人近い信者を率いて行進した‘別離の巡礼’に因む重要な儀式で、信者は一生に一回は実践しなければならない神聖な義務とされている。行き先はメッカのカアバ神殿であり、言った人間は‘ハージー’と呼ばれ、特別な尊敬を受けるとの事。
 アフガニスタンでは宗派は別として、殆どの国民がイスラム教徒(但し、高学歴の人間、長く西側諸国で生活し、教育を受けたものの中には、自称‘ムスレム’(イスラム教に帰依したもの)と言いながら、断食始め多くの教義を守らない人間が増えてきている)であるが、その大多数は安定した収入を得ておらず、日常の生活にも困窮している。又、カブールのような大都市でも人口約220万人の内、安定収入のない者は40%以上と言われており、例え職を得ていても、その多くは月収$40~60(国連に雇用されている、例えば、運転手は$400以上、国際NGOの場合、$130前後の者もいる)であり、ましてや地方では年収$100 以下が大部分と見られている。
 ハッジを迎えるに際しては、政府、地方行政よりメッカ往復の無料航空券の配布をはじめ、特別料金航空券、メッカ ツアー等あるようだが、その数は限られたものであり、一部の経済的余裕のある者、特権階級のみが実践できる現状にある。無料航空券は、政府、地方行政の幹部にのみ配布され、本人は行かずに、それら幹部の家族、親戚、友人がその恩恵を享受していると言われている。ハッジはイスラム教徒にとって非常に大きな義務であるが、現実として経済的理由からこの義務を一生かけても実践出来ない人間の方が遥かに多く、このような者はその義務をどのような形で償うのであろうか。
 コーランは、礼拝に加えて、……本当の宗教心とは最後の審判の日(来世―アラーの為に立ち上がり、殉死(戦死)、聖戦(ジハード)への参加)、……大事な財産を親類縁者や孤児、貧民、また旅路にある人や乞食に分け与え……云々とあるが、多くの人は、聖戦(ジハード)に加わることでそのハッジの償いと考えているのであろうか。
 現在、アフガニスタンは復興途上にあるが、政治は全く安定しておらず、地方では至る所で軍閥間の武力衝突 が続いており、反政府ゲリラであるヘクマテアール一派(北部同盟に属し嘗てタリバン政権打倒に大きな力を発揮した)はタリバン残党・アルカイダと結束し、カルザイ政権打倒、西側諸国に対する聖戦に挑む動きにあり、既に南部、東部では組織が拡大しつつある。これらに参加する兵士の多くは教育を受けていなくとも敬虔なイスラム教徒が大部分であり、彼らを参集させる為にハッジ義務の償いが呼びかけの一つとなっていないと言い切れるであろうか。

報告者:笹井 英毅 

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