スリランカの民族紛争について
2003/03/08
1.スリランカの紛争概要
(1)原因 
 スリランカの紛争はシンハラ人政府とタミール人の反政府ゲリラLTTE間で1983年に始まったものとされる。紛争は多数派民族シンハラ人と少数派民族タミール人との歴史的な問題が複合的に組み合わさったものであり、原因については研究者によって英国植民地支配の影響や、言語の対立、シンハラ人地域とタミール人地域の経済格差による対立等、数々の理由が挙げられるが、一般的に最大の原因は独立後の国民国家建設の過程で国家=多数派シンハラ人となり(公用語シンハラ語のみや、進学・就職等でのシンハラ人優遇政策を実施)、タミール人を中心とする少数派民族が差別・抑圧(しばしば虐殺)された結果、民族間の対立がエスカレートし、議会政治を通じた少数派の抗議運動が力でつぶされた後、絶望したタミール人青年の過激派が武力闘争を開始したものといわれている。

(2)現状
(イ)
20年間の戦闘の結果、軍事的な完全勝利は双方にとって不可能である。政府軍は、北部タミール人の支援を得てジャングルでゲリラ戦を続けるLTTEを根絶できず、LTTEはゲリラ戦で政府軍を撃退しても正規戦で勝利し独立を獲得することはできない。
(ロ)
経済的には、2001年の国際空港テロ攻撃以降急激に悪化し、全国民が紛争被害を実感している。ビジネス界も戦争に反対している。政府側は長年の紛争で財政が悪化し、これ以上の戦費は賄えない。LTTE側は海外に散ったタミール人からの組織的送金で武器を購入していたが、米国の9.11テロ事件以降、国際的な反テロ包囲網で海外からの軍資金が細り、戦闘続行が困難になっている。
(ハ)
政治的には、LTTEとの和平を目指すUNP政権が誕生し、厭戦気分の広がった国民が和平を支持している。民族主義に基づく被害者意識と相手民族への不満は今も大きいが、この紛争を終結することではシンハラ・タミル人双方とも国民的総意がある。
 以上よりこの紛争はすでに終結に向けて進まざるを得ない紛争サイクルの末期状況といえる。
 
2.スリランカ紛争解決策の基本フレーム
(1) 南アジア地域では地域大国たるインドの意向が反映されるが、LTTEによる北部東部分離独立はインドの強い反対により不可能。
(2) 北部で独自の警察や行政機構を整え独立国家のような統治を固めているLTTEを政府が実力で統合するのは現状では不可能。
(3) よって、国家としての一応の統一性を保ちながら、実質的に大幅な自治をLTTE支配地域に与える(現状追認型の自治付与)形に落ち着くしかない。
(4) 自治のレベルは、LTTE支配地域の自治がインドのタミルナド州分離独立運動に波及することをインドが恐れており、インドの連邦制の自治範囲を超えない程度となろう。
(5) 時間的にも2年以内に何らかのけりをつけることが目安。今後大統領選挙やインドの国民会議派が政権を取った場合、ソニア・ガンジー(娘プリヤンカも同様)は夫のラジブガンジーがLTTEに暗殺されたため、強硬な態度でLTTE最高指導者プレバカレンの逮捕身柄引渡しを要求する可能性大。この場合、スリランカの和平は厳しい状況となる。
 
3.今後の3つのシナリオと可能性
(1)和平合意ケース
 スリランカ政府とLTTE間の和平交渉が順調に進み、政府軍の北部撤退やLTTE武装解除等の核心問題にも合意を得て、政府は南部シンハラ人の不満を押さえ北部東部に大幅な自治権を与える連邦制で和平合意し、自治付与のため憲法改正を成功させ、海外より大規模な復興援助を得て、経済発展する。

(2)現状固定ケース
 スリランカ政府とLTTEは合意できる問題から先に解決し、軍事を含む核心問題には触れず、政府側とLTTE側双方も国内(支配地域市民)の理解をえることが難しい連邦制の最終的妥協案は先延ばしにし、国会の3分の2の議席は与野党とも永久にとれないため憲法改正は行わない。現状のまま、復興開発だけを先行して行い、2004年末から2005年にUNPのラニル・ウィクラマシンハ首相が大統領選で過半数を取り、大統領となる。その後、絶大な大統領権限でLTTEとの問題を各個処理してこの紛争に一応の解決を見ようとする。

(3)和平崩壊ケース

 スリランカ政府とLTTE間の交渉はスリランカ政府(南部シンハラ側)がLTTE側に一方的に譲歩する形であり、ノルウェーがタミール側に立っているとの不満や、戦闘的な仏教僧による和平反対運動、そして経済的なインフレと生活苦から人々の政権への不満が高まる。野党PAのチャンドリカ・クマラトゥンガ大統領と市民の不満を吸収するマルキスト政党のJVPが同盟してUNPを攻撃し、政権が危うくなる。またLTTE支配地域ではタミール地域での少数派ムスリムへの人権侵害が続き、ムスリムのタミール人に対する係争が頻発拡大。LTTEと政府軍との偶発的な事件から軍事的対立が再燃する。

(4)3つのケースの展望
 建前として和平合意と連邦制の創設、憲法改正を唱えているが、実際には包括的な和平合意はスリランカの現状からはしばらく先のことになると考える。政府側もLTTE側も権力を保持するため市民の支持が必要だが、これまでお互いを鬼畜とみなして戦争をしてきたため、最終妥協案(相手民族への譲歩)には市民からの支持取り付けが容易ではない(理解に時間がかかる)。またこの国の2大政党システムでは議会の過半数をとれても、憲法改正に必要な3分の2以上の国会賛成は構造的に困難であり、例外的に与党UNP(首相)と野党PA(大統領)が協力しない限り憲法改正はありえないと考えられる。
 和平崩壊は、南部シンハラ人の不満とイスラム教徒(ムスリム)問題が今後拡大して大きな障害になることが予想されるが、それでも国民は戦争に戻らないことと、そのためなら妥協をいとわない世論ができているので、来年が大統領任期末の野党クマラトゥンガ大統領がジリ貧を恐れ、議会を解散し選挙に打ってでる可能性があるが、現政権は何とか乗り切る可能性が高い。よって、大胆な予測ではあるが、可能性は和平合意ケースが30%、現状固定ケースが60%、和平崩壊が10%位と観る。
 通常、欧米的な紛争解決のモデルケース(中東やアフリカ等)は和平交渉とすべての事項の合意後に最終的な平和が達成され、合意に基づく新体制で復興が開始されるが、スリランカの今回のケースは、困難な軍事や政治問題は後回しにして、双方が容易に合意できる経済的復興の分野から手をつけ、先行する緊急人道援助を通じてさらに双方の信頼醸成を高め、より高次の和平交渉をしようとするものである。これはある種、欧米の契約思想に基づく従来の紛争解決モデルと違う、プラクティカルな“アジア的”紛争解決のケースになる可能性がある。
報告者:池上 善晴

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