2001年度スリランカにおける紛争予防事業
2002/6/26

1.メディア・ワークショップ
 日本紛争予防センタースリランカ事務所(当時日本予防外交センター南西アジア代表事務所:以下当センターと標記する)は現地提携NGOのNational Peace Councilと共催でスリランカ第二の都市キャンディにて『メディア・ワークショップ』を開催した。これは2000年度に地方政治家を対象として7回開催した『予防外交ワークショップ』シリーズを、メディア関係者対象に行ったもので、キャンディ市内の新聞、テレビ、ラジオ局に従事する記者や放送局職員25名が4月6日から8日までの2泊3日の日程で参加した。このワークショップではスリランカの民族紛争の構造や少数民族の声、武力解決ではなく和平交渉による共存の重要性等を、専門家による講義やビデオ教材およびロールプレイ演習を通して教育した。参加者は多数派民族シンハラ人と少数派民族タミール人の両方であったが、メディア関係者は政治家や一般市民以上に強硬な民族主義を唱える人物が多く、夜遅くまで激論が続いた。最終日には参加者から別の視点を与えてくれたとして当センターのワークショップを評価する声が多く寄せられた。このワークショップ開催中には平和活動に理解を示す大物国会議員が3名訪れ、その後、ワークショップの内容は新聞等の記事にも掲載された。メディアの影響力を考え、民族主義を煽るような記事を控え、公正な立場で情報を流すことを促したこのワークショップの効果は大きかったものと考える。

2.事務所開所式
 当センターは2001年4月30日にコロンボ市内のバンダラナイケ記念国際会議場で盛大なスリランカ代表事務所の開所式を挙行した。開所式には事務所立上げを支援していただいた日本大使館大塚清一郎大使の他、サラット・アムヌガマ灌漑大臣、サルボダヤのA. T. アリヤラトネ会長等が壇上に登り、祝辞のスピーチを述べ、当センターからは阿曽村邦昭所長が記念講演を行った。式にはスリランカのNGO関係者や大臣、事務次官、各国大使館および援助機関関係者の計約150名が参加し、事業が軌道に乗り、地元に根を張った当センターの存在を強くアピールした。

3.ピース・キャンプ実施
 当センターは現地ボーイ・スカウト協会と協力して、6月1日から3日まで3日間の日程でピース・キャンプを開催した。開催場所はコロンボ市内のエリート養成学校ロイヤルカレッジ内である。当センターではこれまでワークショップ事業を行っているが、20年続いたの民族紛争から人々は自民族中心の世界観と被害者意識が強く、民族を超えた信頼と平和共存を説くのは容易ではないことを理解している。平和の基礎を築くには思考の固まった大人だけでなく、たとえ時間がかかっても思考が柔軟な若年層を教育し、平和な未来を築いてもらおうという考えから、将来社会のリーダーを目指す優秀な10代後半の青年を集め、民族共存と平和について考えながら各人の自覚と責任を促す教育プログラムを実施した。このピース・キャンプでは学校の教室に寝泊りして、紛争と平和、リーダーシップと責任について真摯な議論が展開された。当センターの現地代表や職員も紛争のケーススタディの講義を行い、日本人の立場から紛争問題について意見を交換した。キャンプ後に参加した青年達すべてから手紙をいただいたが、感銘を受けて感謝する内容が多く、当センターの熱い思いが確実に届いて青年達の心に影響があったものと確信している。

4.プッタラム調査
 日本大使館の「草の根」無償の支援を受けて行っているプッタラムの国内避難民キャンプコミュニティセンター建設事業に先立ち、プッタラム市民の生活状況を地元NGOのCommunity Trust Fund (CTF)と協力して調査した。とくにプッタラムの半島や島の漁民の生活環境に関して実際に当センター職員がスリランカ政府のボートで視察に赴き、生活インフラが無い僻地での衛生問題等について調査した。CTFは活動地域の地元民全員から調査票を取り統計にまとめた。プッタラム調査の結果はその後の「草の根」事業企画・実施に役立っている。

5.仏教僧500人平和会議開催される
 当センターはスリランカ最大のNGOであるサルボダヤとの共催で大規模な仏教僧による平和会議(National Buddhist Priest Conference)を7月31日に開催した。この会議ではスリランカ全国の仏教4大宗派から500人の仏教僧が集まり、仏教徒による平和推進と全国組織およびに地方組織の設立が話し合われた。当センターのスリランカ代表は、第二次世界大戦後のサンフランシスコ講和会議で日本の賠償責任の放棄を率先して訴えたスリランカのジャヤワルダナ大臣の言葉を引用し「憎しみは憎しみによっては解決されず、愛によってのみ解決される」と述べ、平和国家日本から民族和解へのメッセージを送った。

6.平和教育モジュール作成
 仏僧の平和会議に続いて当センターは現地NGOのサルボダヤと8月から4ヶ月間仏教僧平和教育モジュール作成に協力した。モジュールとは平和教育のためのテキストや資料、カリキュラム一式のことであり、村落で大きな影響力をもつ仏教僧の平和理解のために、青年僧を対象に行う、仏教哲学に基づいた平和教育プログラムの準備でもあった。モジュール作成会議では当センター職員が毎回南部ラトナプラで開催される会議に参加して、日本人の観点から平和教育プログラムへの意見を述べた。最終的に平和や農村開発指導等を含めた包括的な内容のシンハラ語の分厚いテキストが完成した。2002年の2月と3月には実際にこのモジュールを使用して仏教僧への平和教育プログラムを実施した。

7.宗教間平和会議開催
 日本紛争予防センタースリランカ代表事務所(以下当センターと標記する)は現地提携NGOであるセワランカ財団およびNational Peace Councilの3者共催で、2001年10月4日から7日までの3日間、スリランカ東部トリンコマリーのホテルを会場に『宗教間平和会議』を開催した。この平和会議はスリランカ4大宗教(仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教)の各指導者の他、スリランカ南北NGOおよびコミュニティーリーダー合計200名が集まり、紛争で分断された南北間の市民社会による対話を行い、平和達成のために市民社会の合意を作ることを目的として実施された。会議には日本大使、ノルウェー大使、EU大使、ドイツ大使のほか、インド大使館員や国際機関職員がオブザーバーとして参加した。開催時はまだ和平が始まる前でスリランカが戦時状態にあり、この会議は紛争地域から市民社会の総意をもって平和へのメッセージを世論に訴える画期的な試みであった。会議では特に紛争による被害を直接受けた北部・東部のタミール系市民(反政府組織LTTE支配地域地側の市民を含む)の生の声を南部多数派シンハラ人側が聞き、真実を理解し合う貴重な機会となった。会議後もスリランカ国内のテレビや新聞メディアを通して反響が大きかった。日本大使館の支援を得ながら、当センターは会議の企画運営の中心的な役割を担った。本会議は日本の目に見える和平推進への貢献として国連や各国大使館からも高く評価されている。

8.紛争予防市民大学院・海外研修コース実施
 当センターでは紛争予防分野における人材育成に力を入れており、毎年、日本における「セミナーコース」を修了した優秀な人材を対象に、スリランカでの「海外研修コース」で実践的な教育・訓練を行っている。2001年度も東京で一流講師36人に日本最高の紛争予防教育を受けた13名の院生の中から5名が選抜され、10月26日から12月17日まで約7週間、スリランカで海外研修を受けた。この海外研修では研修員がスリランカの民族紛争を多面的かつ直接的に理解するため、スリランカ全土への視察調査と、政府高官やNGO関係者そして国際機関職員との面談調査を行い、研修員は現場の生の声を聞きながら、当センターの紛争予防事業にも参加して、紛争予防の最前線を体験した。研修員はコース中にそれぞれ興味をもつテーマについて調査し、最後に報告書にまとめた。この報告書は大変レベルの高い内容で、海外研修は充実したものであったといえる。実際に紛争の現場を見ることができる日本でも唯一の研修プログラムであるため、毎年参加者からの評価も高い。2002年度の海外研修コースでは、今年2月の停戦後、スリランカの紛争状況が大きく変化しているため、これまで日本人が行くことができなかった前線地域(北部・東部地域)への視察を含め、安全が確保できる範囲内で、研修内容を最大限発展させる予定である。

9.平和構築ワークショップ実施
 当センターは地元提携NGOであるCTFと共に、コミュニティーでの民族融和を目的としたワークショップをプッタラムとアヌラダプラで計15回開催した。ワークショップは毎週土曜か日曜の1日を使い、地元の小学校などを会場にして周辺のシンハラ、タミール、ムスリムの若者を30人ほど集めて行う。内容は民族問題や宗教問題のケーススタディを行い、これに対する参加者のオープン・ディスカッションを行い、自分達のコミュニティーでの問題とその解決策をグループに別れて論議する。最後にアクション・プランを作成させ、各自の主体的なコミットメントを求める。参加者からは同様のワークショップをさらに続けて欲しいとの要望が出ている。

10.プッタラムの地域開発を通じた平和構築プロジェクト
 2001年12月に日本大使館より草の根無償資金協力の支援を受けて、スリランカ西部の貧困地域プッタラムにおける国内避難民キャンプ2ヶ所でコミュニティセンター建設と職業訓練や平和教育のプログラム実施を地元NGOのCommunity Trust Fund (CTF)と共に開始した。プッタラムには1990年前後に北部マナーから反政府組織LTTEに武力で追い出されプッタラムに逃れてきたイスラム系国内避難民が政府の福祉センター(難民キャンプ)等に多く移住しているが、生活環境は劣悪で、地元民との摩擦も絶えず、厳しい環境にある。プッタラムの避難民は欧米からの支援も少ないため、当センターがこれをあえて対象に選び、日本大使館の支援を受けて、プロジェクトを開始した。イスラム系避難民は少数派タミール人地域の中でもさらに少数派民族として難しい位置にあり、出身地の村には依然として地雷が多く敷設されているため停戦後も帰ることができず、既に10年間難民キャンプで生活をしている。今ではキャンプ内で生まれた新しい世代が育ち、当センターではコミュニティーセンターを利用して幼稚園や保健サービスを運営する予定である。プッタラムにおける当センターのプロジェクトは、今年4月4日から5月16日まで東京テレビ系列で放映された日本政府のODA広報番組『Myらんど‐スリランカ編』でも取り上げられ、当センターのワークショップや避難民キャンプの模様が2週にわたって日本全国に紹介された。

11.ピース・キャンプ実施
 2000年度より、将来を担う青年を対象にして民族融和をはかるピースキャンプを開催しているが、今回は当センターとCTFの共催で、2月2日から4日までの3日間、アヌラダプラのKekiriwa Central Collegeを会場に大規模なピースキャンプを開催した。参加者はプッタラム、アヌラダプラ、バブニア、トリンコマリーの若者計600人で(シンハラ人が約4割、ムスリム4割、タミール人2割、男女割合は半々)、民族を混合した25人ほどのグループを作り、各グループで3日間共同生活をした。このピースキャンプでは、当センター職員の他、地方政府とCTFのワークショップ専門家が壇上から講義をして、民族間の信頼醸成とスリランカ人皆兄弟というメッセージを繰り返し伝え、また青年が内容に飽きないよう講義と交互して参加者グループによる平和をテーマにした歌や演劇舞踊を披露した。どちらかというと高校生の学園祭のような雰囲気になったが、普段外泊が許されないムスリムの少女を含め、多民族と交流する機会が少ない若者に民族を超えた友情と信頼関係を築いてもらうことに成功し、大変な熱気と盛り上がりで、将来を築く若者の民族間信頼醸成に貢献したものと考えている。尚、このプログラムの評判を聞いた各県の教育関係者から開催の希望が多く寄せられ、北部の教育委員会から特に要請が強かったため、今年4月にはアヌラダプラとほぼ同内容のピースキャンプを北部マナーでも開催した。

12.平和共存ワークショップ開催
 当センターとセワランカ財団の共催でスリランカの4大宗教指導層を対象にした「平和共存」ワークショップを開催した。米国ブランダイス大学から紛争解決の専門家を招き、2月9日から11日までの3日間、スリランカの古都キャンディで実施した。参加者は各宗教の若手リーダー14名で、特に仏教僧は各宗派で数千人の僧の上に立つ若手高僧4名が参加した。米国の平和構築活動専門家からアフリカでの市民による紛争解決成功の具体的ケースを学び、宗教や民族そして文化の違いを越えた平和共存の可能性を参加者が議論した。緊迫する政治状況下で大変センシティブな内容のワークショップであった。各宗教の持つ伝統的な紛争解決の方法の説明や、平和達成を目指した高度な内容の議論を行い、最終的に各宗教グループから代表を出して独自の委員会(Multi Religious Peace Initiative)を作り、今後も参加者が自主的に平和活動を続けることとなった。

13.仏教僧平和教育プログラム実施
 当センターとスリランカ最大のNGOであるサルボダヤは、2001年8月に共催した「仏教僧500人平和会議」に続き、仏教僧への平和教育プログラムを実施した。このプログラムは当センターの支援によって3ヶ月かけて作成された仏教僧への平和教育モジュール(マニュアル)を使用し、今年2月と3月に1回2週間のコースで、仏教の教えに基づく「平和」教育の他、農業技術やコミュニティー開発の指導方法などを教育している。仏教界はスリランカの多数派民族シンハラ人に対して大きな影響力を持ち、仏教僧の和平支持がシンハラ人世論動向の鍵を握っているため、仏教僧への平和支持の働き掛けは極めて重要と言える。日本及び当センターはスリランカの平和に直接貢献する重要な役割が期待されている。

14.警察人権ワークショップ
 当センターはスリランカ警察庁副長官チャンドラ・フェナンド氏との協力で、今年3月に合計3回の警察ワークショップをスリランカ中部のアヌラダプラで実施した。内容は民族や政党に偏しない中立公正な警察の必要性と、民族を超えた警察の人権意識、普遍的な法による職務遂行等の教育である。警察本部の教育部門責任者と当センター職員が講師として実際に講義を行った。和平の進展をにらみ、北部ワンニ地域の警察署長クラスを対象にしていて、治安機関の改革という観点からも平和達成にとって重要なワークショップであると考えている。これまで警察によるタミール人へのハラスメント等が頻発して、多数派シンハラ人政府による少数民族支配抑圧の手先であるという見方もあった。今年2月の停戦後、和平プロセスが本格化しようとしており、今後LTTE戦闘要員との偶発的な戦闘を抑えて、和平を守り、さらに政府側治安機関とLTTE側との共存や将来の政府警察への編入統合をにらみながら、当センター職員が専門的な紛争解決理論や民族対立における警察の役割等の講義を前線の警察幹部や特殊部隊を対象におこなっている。各方面からの反響が大きくシンハラ系新聞でも紹介されており、復興大臣からの要望も受けて2002年度上半期にはジャフナや東部の警察幹部を対象にワークショップを継続して開催する予定である。

以上 

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