| 7月から8月初旬にかけてのスリランカの政治情勢について報告する。7月は国会停会や国民投票実施の決定、国際空港襲撃等の重要事件が相次ぎ、政局が流動化しているところ、主要点をまとめれば以下の通り。 記 1.これまでの政局の流れ 6月には、イスラム教徒のリーダーであるハキーム大臣・スリランカムスリム会議(SLMC)総裁の大臣職解任と、これによるSLMCの与党人民連合(PA)離脱、そして国会におけるや与野党議席の逆転(与党109議席、野党116議席)、その結果として統一国民党(UNP)を中心に野党による政府不信任動議の国会提出が行なわれた。 2.緊急事態令失効 6月の政局の急展開を受け、7月4日にはスリランカの民族紛争発生以来18年間続いてきた緊急事態令(the State of Emergency)が失効した。緊急事態令はタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)との戦闘に関し、軍を全国に展開し治安維持の権限を付与する基本法であるが、毎月国会で延長の承認が必要であり、今回少数与党に転落したPA側は国会で否決されることを恐れ、延長をあえて行なわなかった。今後の治安維持はテロ防止法(Prevention of Terrorism Act)と公共安寧法(Public Security Ordinance)によってLTTEを非合法化し、三軍に治安維持権限を付与する。 3.国会の停会と国民投票の実施決定 少数与党下の政府不信任動議という政権の危機的状況を打開するため、7月10日深夜、クマラトゥンガ大統領は国会を9月7日まで停会させ、その間の8月21日に憲法改正の是非を問う国民投票を実施する旨発表した。大統領側は国民投票による世論の支持をもとに昨年の国会総選挙から1年経つ今年10月以降、大統領権限で国会を解散し、再び総選挙を行なうものと予測される。 野党側はこの措置を民主主義に反する強権政治として、一斉に反発し、7月16日には警察により封鎖された国会に強硬入場して緊急集会を開催し、クマラトゥンガ大統領の弾劾を決定した。野党はその後、反政府抗議集会やデモを全国で展開し、7月19日には野党UNP主催によるコロンボ市内での大規模デモへの警察の過剰な対応で2名の死傷者が出ている。 現行の憲法では大統領に絶大な権力が集まっており、また同時に憲法改正には国会の三分の二の賛成が必要であるなど、2大政党制のスリランカでは憲法の改正が難しくなっている。大統領は法的拘束力を持たない国民投票の賛成多数により国民より憲法改正の使命を得たとして、法規に定められていない措置を正当化しようとするのではないかと心配する声も一部にある。国民投票では平和達成のため新しい憲法が必要かどうかのみを問い、新憲法の内容は事前に国民には知らさず、国民投票後に政府が作成し年内に提示する。 クマラトゥンガ大統領は実権を持つ現行の大統領制度を廃止して、首相が実権をもつ内閣制に移行する案を表明している。現行の憲法では大統領は最大2期までと定められており、2期目を務める現職のクマラトゥンガ大統領は、憲法改正後実権を持つ首相となって政権をさらに継続する意図ではないかとの指摘もある。 4.国民投票の延期 今回の国民投票に関しては、野党UNPを中心にタミル系政党も含めて反発が強く、また政府部内でも大統領の重用する中心的閣僚複数が国民投票の実施に反対しており、政府の非公式調査でも国民投票による賛成過半数は困難との結果が出ている模様。このような状況下、8月7日にクマラトゥンガ大統領は国民投票の実施を8月21日から10月18日に延期する旨発表した。国民投票の実施については、今後さらに延期あるいは中止される可能性もある。今後の大統領側政権維持の戦略と政局のシナリオについては、現地識者の意見も混乱しており、関係者にも見通しが立たない先行き不透明な状況になっている。 5.バンダラナイケ国際空港襲撃事件 7月24日早朝、スリランカ唯一の国際空港であるバンダラナイケ国際空港と、隣接する空軍基地が反政府ゲリラLTTE(タミル・イーラム解放のトラ)の攻撃を受けた。 LTTEは民族紛争の引き金となったタミル人に対する1983年の暴動の日にあわせ、同日朝3時30分より空港警備を突破して迫撃砲と自動小銃による攻撃を開始し、民間機と軍用機を破壊した。その後駆けつけた陸軍部隊との戦闘により自爆テロ犯1名を含むLTTE14名が射殺された。ただし民間人の犠牲者は1人も出ていない。 この襲撃で政府分兵士7名が死亡、ミグ27戦闘機を含む軍用機8機が破壊され、民間機ではスリランカ航空のA-340一機とA-330s 2機が破壊された。襲撃による被害総額は3.5億ドル(約420億円)にのぼる。後日、事件の責任をとって空軍基地の司令官や警備担当者合計11名が停職処分になった。 被害を受けたスリランカ航空は株の40%を取得しているエミレーツ航空の運営下にあり、襲撃事件後ハブ空港としての役割をドバイとシンガポールに振り分け、現在は通常の業務に戻っている。破壊された3機は戦争特約保険がかけられており、機体の損害は補償されるが、スリランカ航空のイメージと観光地として評価が地に落ち、欧米諸国が自国民にスリランカへの渡航注意勧告を出す中、スリランカ経済(観光・投資)への長期的ダメージは少なくないといえる。 6.北部東部での戦闘 スリランカ政府軍はLTTEによる空港襲撃後、北部LTTE拠点への空爆を行った。また国防省の発表によると7月27日に北部ジャフナ半島で政府軍とLTTEの交戦によりLTTE側が7人の死者を出した。また東部のバティカロアでは政府軍とLTTE間の戦闘に巻き込まれた民間人2名が死亡した。北部への戦闘機による空爆はその後も継続して行なわれている。 7.和平状況 政府軍とLTTEとの戦闘および、国内与野党対立による政権危機と政局の不安的により、ノルウェー仲介による政府とLTTEの和平プロセスが頓挫している。一連の政治的混乱が落ち着き、政治の新体制が安定するまでの数ヶ月間、少なくとも今年度内は、和平への大きな進展が望みにくい状況となっている。 以上 |