第6回研究会

開催日時2007年5月25日(金)
タイトル東ティモール・大統領選挙監視活動報告
講師上杉勇司氏 (広島大学大学院国際協力研究科准教授)



 2007年の4月9日および5月9日に実施された東ティモール大統領選挙監視活動の報告が広島大学大学院国際協力研究科の上杉勇司准教授よりあった。その概要は次の通り。まず、上杉氏が監視員として派遣された東ティモールの東部にあるバウカウ県の模様などのスライドを見ながら、東ティモールの概要説明があった。上杉氏はポルトガルによる植民地支配、第二次世界大戦中の日本軍による占領、フレテリンと呼ばれる民族独立運動勢力による東ティモールの独立宣言とその後のインドネシアによる軍事併合などの東ティモールの略史の説明を行った。インドネシアのスハルト政権の崩壊に伴い、事実上の東ティモールの独立を問うことになった1999年の直接住民投票と統合派民兵による破壊や殺戮、事態の収拾のために国連安全保障理事会に授権された豪州軍を中心とする多国籍軍(INTERFET)の介入など、国際社会が東ティモールの選挙監視を行うようになった背景もあわせて説明された。

 上杉氏は2001年の制憲議会選挙、2002年の大統領選挙、2005年から約一年間をかけて実施された村長・村議会選挙も監視した経験があり、当時と比較しつつ、今回の大統領選挙の模様を説明した。今回の選挙は2006年4月に西部出身の国軍兵士の抗議運動に端を発した一連の騒擾事件を受けて、国際社会も関心を寄せた選挙になった。東ティモールの全般的な治安維持のために、豪州軍を中心とした多国籍軍が展開し、国連も警察を主体とする国連東ティモール統合派遣団(UNMIT)を展開して、選挙を迎えた。近年の国連平和活動の特徴として、コンスタビュラリーと呼ばれる準軍事組織(重武装で組織的に行動する警察部隊)の役割が注目を集めている。東ティモールでも通常の文民警察(UN Police)に加えてFormed PoliceやSpecial Policeといったコンスタビュラリー系の警察部隊が活動していた。上杉氏が派遣されたバウカウでは、バングラディッシュから暴動鎮圧を専門とした特殊警察部隊や要人保護を専門とし機関砲を装備した装甲車を擁するポルトガルのコンスタビュラリーも展開していた。豪州軍は、首都ディリの治安上の拠点や要所を警戒警備したり、巡回したり、検問を設けるなどして警戒にあたっていた。豪州軍は反乱勢力の捕獲・鎮圧作戦を実施しており、実際に反乱勢力側に死傷者が出ている。しかし、今回の豪州軍の活動は1999年のINTERFETとは異なり、国連安全保障理事会の授権による行動ではなく、東ティモールと豪州の二国間条約に基づいて派遣されている。豪州軍の東ティモールでの武力行使について法的にグレーの部分がある点、かつ住民の対豪州感情が悪化している旨が上杉氏より指摘された。

 実際の選挙に関しては、深刻な問題や不正もなく順調に実施された旨が説明された。とりわけ、投票所のスタッフは責任感を持ち主体的に業務に従事していた点が高く評価された。しかし、今後の課題として国家選挙委員会(CNE)の権限強化、選挙管理技術事務局(STAE)の中立性の確保、選挙中の異議申し立て等を公正に処理していくプロセスにおける最高裁判所の役割などが指摘された。日本政府派遣の選挙監視団の特徴として、短期監視員ということもあり、基本的には投票・開票行動のみを監視するに留まっていて限界もある。団長を中心に日本選挙監視団は象徴的・政治的な効果を狙ったものである。その意味で、東ティモールの国内選挙監視員とは異なる役割を果たしている。そもそも選挙監視活動は当該選挙の正統性を確保するための支援である。今後の展望として、その効果を高めていくために、現地大使館との連携、国内選挙監視員との連携、アジア諸国との連携を進めていくべきである旨が上杉氏より指摘された。

 6月30日には独立後最初の議会選挙が実施される。東ティモールにおいては大統領の権限は象徴的なものであり、実質的には一院制の国会で最大与党となった政党が選定する首相に権限が集中している。したがって、大統領選挙において惨敗した最大与党のフレテリンが、議会選挙をにらんで死にものぐるいで対策を講じてくることが予想される。選挙法に基づいた活動であればいいが、ここで不正が生じたり、議会選挙後に治安が悪化したりするかもしれない旨が上杉氏より指摘された。このような東ティモール政治情勢や今後の展望については、東ティモールの平和構築において要職に就いていた長谷川氏(次回講師)に譲り、今回の講話は長谷川氏の前座として位置づけるとよいという結論で研究会を締めくくった。研究会に引き続き、ビールやワインにピザなどを交えて和気あいあいとした雰囲気で懇談会が開かれた。そこで、選挙支援や東ティモール情勢についてなどざっくばらんに意見交換を行った。

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