冷戦後の世界と紛争予防
頻発する地域紛争
パレスチナ、カシミール、東チモール、バルカン半島、そしてアフリカ各地において民族対立が絶えない。冷戦が終結して10年以上経った今でも、世界における紛争の火種は消えることがない。日本で生活している限りでは遠い地域での出来事だと思われている地域紛争の数々も、2001年9月11日の米国における同時多発テロ事件に見られるように、現実には我々の安全を確実に脅かす存在である。 21世紀を迎え、様々な挑戦に国際社会は直面している。中でも頻発する地域紛争への対応が急務となっている。特に近年においては紛争に対する事後対応ではなく、その予防を目指す動きが活発になってきた。いわゆる紛争予防活動であるが、その概念や実体についての理解は現在の日本では残念ながら不十分である。
冷戦期の国際社会
冷戦期、国際社会は米ソ二大国によってコントロールされていた。米ソ以外の国家はいずれかの陣営に属し、世界は東西に分裂して各地の対立や紛争・戦争はクレムリン(ソ連)とホワイトハウス(米国)によってコントロールされるという人類の歴史上も稀な国際システムが堅持されていた。
このシステムを支えていたのは当時の米ソ超大国による核兵器保有競争にみられるような相互確証破壊、すなわちMAD(Mutual Assured Destruction)と呼ばれるセントラル・システムであった。
しかし、1980年代末からのソ連邦の崩壊により東側陣営が消滅したことによって、従来の国際社会における米ソ二大国を中心とした秩序維持システムそのものが機能しなくなった。これが、いわゆる冷戦後世界の出現である。
冷戦後の国際社会
冷戦後世界において諸国家は大きく3つのカテゴリーに分類される。先進圏、中進圏、混沌圏の3つである。
- 先進圏に属する国家としては、経済的発展に成功したG8などの先進国が想定される。グローバリゼーションの中で超近代の価値観、「世界市民意識」を持っている国家である。
- 中進圏に属する国家としては、中国やインド、東南アジア諸国、ブラジルなどの発展途上国が想定される。ナショナリズムを強調し、強い軍隊をめざす近代的価値観、「進歩」を国家目標とする国々である。
- 最後に、混沌圏に属する国家としては、アフリカ諸国や旧ユーゴスラビア等の紛争国、もしくは破綻国家と呼ばれ国家統治自体が危うい状況にある国家が想定される。冷戦期は米ソによる秩序維持システムが機能していたため、混沌圏は存在し得なかった。しかし、ソ連崩壊に伴う冷戦の終焉と同時に、休火山が突然噴火するように、旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナやコソボで悲劇が発生し、旧ソ連ではチェチェンにおいて民族紛争が勃発した。
このような地域紛争と呼ばれる一連の紛争が突如として頻発し始めたのは、ヨーロッパにおいてだけではなかった。アフリカでも、アジアでも民族対立や宗教対立に起因するとされる紛争が一斉に火を噴き始め、民族浄化、人権侵害、内戦、大量の難民流出などの現象が広がったのである。
今日の国際社会においては、混沌圏における紛争の解決、すなわち地域紛争への対応が安定的な国際社会を実現するために、また人道上の観点からも、緊急の課題であると認識されている。そのための具体的な行動が紛争予防である。