平和交渉と対LTTEの動き
2001/3/5

Overview

2001年2月の注目すべき動きを、以下の4点に要約した。

  1. 和平交渉をめぐる国内政治情勢
  2. 国内紛争における軍事情勢
  3. 紛争への介入を含む国際社会とスリランカとの関係
  4. 国内政治経済情勢

1.和平交渉をめぐる国内政治情勢

 政府はLTTEに対する昨今の軍事的優位を背景に、和平交渉の早期開催を望む姿勢である。1月24日の情報省(The Information Department)のプレスリリースでLTTEに対し、一方的停戦宣言という国際社会を欺く方策ではなく、確固たる政治決着をつけるための交渉テーブルにつくべきであると訴えている。一方28日、西側の外交筋によると、LTTE幹部は直接交渉の意志をノルウェーに伝えている。これはノルウェーの下級官僚とLTTEのヨーロッパ代表がここ数ヶ月定期会合をもった中で述べられたものである。しかし具体的日時、条件は明示されていない。同日、Chandrika. Bandaranaike. Kumaratunga大統領はLTTEに対し和平交渉の日程を提示するよう訴えた。また最終合意に至るまで停戦はありえないとして、従来通りLTTEの停戦宣言には応じずに攻撃を続ける構えを示した。
 29日、情報省のリポート発表によると、LTTEは北・東部のタミル政党、NGO、宗教団体、大学生を煽動し、政府がLTTEの停戦宣言に応じず和平交渉に及び腰であることを訴えるキャンペーンを始めた。
 31日の報道によるとシンハラ至上主義政党のSihala Urumayaは同党会議において①外国の介入排除、②反LTTE政党の広範な協力関係確立、③行政、経済、メディア関連の政府組織の反LTTE運動への従事、④国全体の戦時体制確立とLTTE撲滅に向けた計画とタイムスケジュールの作成、⑤国家的重要性を持った組織の民営化禁止、を条件に政府の反LTTE運動を支援すると決定した。またノルウェーのfacilitationに対し、「ノルウェーは小国であるが大きなエゴを持っている」と非難した。具体的にはノルウェーがトリンコマリーの港を基盤にしてアジアにおけるマリンパワーを拡大しようとしている、(ノルウェーの)北海にある石油資源について触れようとしないのはノルウェーがMannerの石油開発を狙っているからである、と主張している。
 2月4日のIndependence Dayに際し、チャンドリカ大統領はメッセージを発表した。その中で大統領はテロ行為の挑戦を前に、和平に対する希望を失ってはならないと説いた。
 軍事筋によると、チャンドリカ大統領はエレファントパスを攻略し、ジャフナ半島を完全に掌握した後、和平交渉を始める意向である。現在政府軍は70%以上を押さえている。また政府筋によると、LTTEは戦闘を続けながら和平交渉を始めるという政府の案を受け入れる方針に転換した模様。
 外交筋によると、チャンドリカ大統領はLTTEの提案である和平交渉の開催地をヨーロッパとすることに同意した模様。しかし具体的な開催地はまだ決まっていない。過去に85年ティンプー、89‐90年コロンボ、94‐95年ジャフナで和平交渉がなされたが、南アジア以外で開催されるのは初めてである。また情報筋によると、Balashinghamは和平交渉開始後のコロンボでの爆弾攻撃は停止する決定を下した。

2.軍事情勢

(1)戦況報告
 昨年12月24日に一ヶ月間の一方的停戦宣言を行なったLTTEが停戦期間を更に一ヶ月延長(2月24日まで)し、政府軍がそれを無視して攻撃を続けるという構図が続いている結果、政府軍優勢の状況が続いている。その他にも政府軍がイスラエルから爆撃機を購入したこと、LTTEが兵力を失っていることなども政府軍優勢を後押ししている。ジャフナ半島の主要部分はほぼ押さえた一方、半島の付け根にあり1999年11月から2000年初めにかけての政府軍敗退でLTTEが奪回した戦略上の重要地点、通称エレファントパス(Elephant Pass)は攻略に至っていない。
 1月21日、空軍はエレファントパスから北8キロ地点にあるLTTEの重要キャンプを攻撃した。最近政府軍が押さえたKilalyでは爆弾や手榴弾などの武器が押収された。NagarkovilではLTTEの迫撃砲による攻撃があった。22日にはジャフナ―キャンディロード(A9ロード)にある戦略上の重要な町Muhamalaiを政府軍は攻略した。これによりジャフナ―エレファントパス間53キロの内、34.5キロが政府軍の支配下となった。またLTTEエリート部隊が大きなダメージを受けたという情報もある。2000年9月からの戦闘でLTTEの死亡者数は1220以上、負傷者数は1250以上となった。23日には政府軍に被害があった。Muhamalaiで地雷により3名の将校と8名の兵が死亡し、5名の兵が負傷した。
 遺体引渡し作業に従事しているICRCは昨年270名、今年42名のLTTE兵、及び昨年209名の政府軍兵の遺体を返還したと発表した。これで1995年以来2402名の兵(その内LTTE941名)の遺体を引き渡したことになる。
 1月28日、Muhamalaiで小規模な衝突が発生し、LTTE側に2名の死亡者が出た模様。29、30日、Nagarkovilの防衛ラインでLTTEは迫撃砲による攻撃を仕掛け、政府軍に両日1名ずつの負傷者が発生した。2月3日、5日にも同様の攻撃で政府軍に1名ずつの負傷者が発生した。政府は政府系メディアの中でLTTEが停戦宣言にもかかわらず攻撃したことを非難した。4日にはLTTEの兵士が1名狙撃されて死亡した。
 6日、トリンコマリーのUppuveli Technical CollegeでLTTEはコンピューター1台、タイプライター4台、コピー機1台、など合計550,550ルピーを窃盗した。LTTEは昨年9月にもトリンコマリーの別大学で9台のコンピューターと1台のタイプライターを盗んでいる。
 13日、政府軍はLTTEの約200名の重武装集団が東部トリンコマリーから北部に向かうのを防いだ。政府軍に2名の死者と2名の負傷者、LTTE側に少なくとも3名の死者が発生した。

(2)軍事予算
 2001年度の軍事予算が大幅に引き上げられ、昨年度の520億ルピーから630億ルピーとなった(21%アップ)。内訳は陸軍が230億→290億ルピー、海軍が78億→80億ルピー、空軍が80億→107億ルピー、警察が80億→120億ルピーとなっている。

(3)LTTE自爆テロ
 1980~2000年に起きた世界の自爆テロの内、LTTEが関与したものは62%を占めた、とJane’s Defense Weeklyが報じた。具体的には①LTTE168件、②ヒズボラ52件、③ハマス22件、④PKK(Kurdistan Workers’ Party)15件、その他Palestine Islamic Jehad8件、Al Quaida(Osama bin Ladenの一派)2件、the Egyptian Islamic Jehad, the Pakistani Islamic Group, the Sikh Babbar Khalsa International, and the Armed Islamic Group1件。またLTTEの自爆テロの約30%は女性が実行したものである。

(4)OXFAM事務所襲撃事件
 1月31日深夜、NarahenpitaのOXFAM(イギリスの緊急支援、開発NGO)事務所に手榴弾が投げ込まれた。負傷者は出なかったが、建物と2台の自動車に被害が出た。その後the National Front Against Tigersと称する反LTTEグループが事件を起こしたことを認めた。しかしそのような団体の存在は捜査ではまだ見つかっていない。情報筋によると、イギリスの同情を誘うためのLTTEによる自作自演である、との見方もある。つまり、犯行をしかけたグループはOXFAMがシンハラ人のすでに退避した地域(現在はLTTE支配地域)に住むタミル人に支援活動を行なっていること、国内問題に外国が介入すること、OXFAMがスカンディナビア諸国の支援を受けていることなどを非難しており、同事件を昨年発生したノルウェーの大使館やノルウェーベースのSave the Children Fundでのシンハラ至上主義者による襲撃事件に見せ掛け、イギリス政府の同情を誘い、LTTEを反テロリスト法の対象団体リストから削除させることを目的としているといわれている。今回の事件後、イギリス高等弁務官府(high commission:大使館と同機能)やイギリスのNGOはセキュリティを強めた。

3.国際社会とスリランカとの関係

(1)ノルウェーによる仲介
 ノルウェー特使Erik Solheimは2月1日、和平努力を継続するためスリランカに戻った。それに先立ち、Solheimはイギリス在住のLTTE理論中枢Balasinghamと会見した。LTTEはノルウェーの準備した和平交渉合意書へのサインを拒否し、政府がサインした後ならばサインすると述べた。Solheimは1月31日、2月1日にチャンドリカ大統領、WickremesingheUNP代表、その他大臣、アメリカ大使、在スリランカインド高等弁務官(high commissioner:大使と同役割)と会見した。その時点では公表されなかったが、ソルハイム氏はヨーロッパでの和平交渉というLTTE側の要求をチャンドリカ大統領に伝え、大統領は即座に同意したと後に公表された。これに伴い、2月19日からの1週間に国会議員がノルウェーに招待された。

(2)イギリス反テロ法適用をめぐる動き
 2001年2月19日に発効されたイギリスの反テロ法適用対象としてLTTEを含むかどうかでスリランカ情勢は大きく揺れ動いた。
 チャンドリカ大統領は2月15日、イギリスにLTTEを同法の適用対象とするよう依頼した。また適用がノルウェーによる和平努力に影響は及ぼさないと述べた。
 野党のタミル政党であるACTCやTULFは適用に反対している。2月にはこの二党も含めたタミル政党10党により"anti-ban"キャンペーンが組まれ、イギリスのブレア首相への請願書を送った。またコロンボのヨーロッパ各国大使への働きかけも行なっている。
 シンハラ至上主義政党のSihala Urumaya党(野党、1議席)はイギリス政府に対してLTTEの反テロ法適用を書面で求め、またUNP(野党第1党)に対しLTTEへの反テロ法適用に賛成するよう求めた。また2月17日まで署名キャンペーンを開催した。
 これに対し、UNPはLTTEへの適用問題に対する17日までの沈黙の理由を「我々がLTTEとの戦争に賛成すれば政府は我々を平和に反する存在とし、逆に平和を求め、イギリスの適用に反対すれば裏切り者呼ばわりするだろう」と説明し、政府の一貫性のなさが原因であるとした。しかしこれはある種の詭弁であり、実情としては与党の方針に安易に追随したくないというだけの政治的理由によるものと考えるほうが妥当であろう。
 駐英スリランカ高等弁務官はイギリス政府がLTTEを適用対象とすることを望むと述べた。
 イギリスでは2月19日の対象リスト公開までLTTEへの適用の有無に触れなかった。それだけでなく、19日の発効後も対象団体の名を伏せた。2種類のリストは"Domestic Terrorist Organization"と"Overseas Terrorist Organization"名づけられたが、今後も公開予定はない。
 一方LTTE側はイギリスでのロビー活動を活発化させている。1月22日ロンドンに"Peace in Sri Lanka"と題した会議を開催し、イギリスやEUの議員を招いた。しかしイギリス当局はその会議について懸念を示している。

(3)反テロ法適用についての分析
 LTTEへの反テロ法適用はイギリス政府にとっては諸刃の剣である。適用はテロ撲滅に前向きな姿勢として国内国外の各方面から賞賛を得る一方、イギリス国内に定住する一定のタミル人票の喪失やLTTEの地下潜入の危険性を助長するだろう。既にLTTEは一方的停戦宣言によってある程度の宣伝上の勝利を収めている。しかしスリランカ政府も停戦宣言に応じず即座に拒絶して戦闘を続けた結果、イギリスは反テロ法適用を見送りにくくなった。

(4)対LTTE関連、国際関係の動き
 政府は国際社会との軍事協力関係を深めることで対LTTE戦の軍事的かつ心理的圧迫感を強めている。1月にチェコの軍事代表団が来訪し、戦車、ロケット砲、技術協力員などの供与を約束した。チェコとの軍事協力関係は1994年以来続いている。2月14日にはチェコのVetchy防衛大臣が来訪し、今後の関係拡充に向けて話し合われた。
 1月25日、ロシアとの国際テロ排除に向けた協力関係を築くことで合意した。これはKadirgamar外相とロシアのIvanov外相との会合の中で決まったもの。対象分野は①犯罪者の引渡し、②相互の法的協力、③有罪人の送還である。
 28日、パキスタンのMuhammed Yusaf Khan大佐(Lieutenant General)が来訪した。パキスタンとは軍事的友好関係が続いており、昨年ジャフナでの政府軍劣勢時に緊急武器供給に応じた国の1つである。また過去80年代中頃にスリランカ政府が反タミル人暴動の責任を国際社会から追及されていたときもパキスタン(とイスラエル)はスリランカ支援を惜しまなかった。2月13日、ロイターの報道によるとパキスタンは2000万ドルを対LTTEの武器購入のために貸与した。インドと対立関係にあるパキスタンは、インドと軍事的協力を競い合っている。2月18日、パキスタンとスリランカは外務事務次官レベルによる定期的な協議会を開催することで合意した。
 スリランカのKadirgamar外相はサウジアラビアを訪問し、サウジアラビア外相Faizai王子と会談した。その中で王子はスリランカの国土分割に反対する旨を表明し、スリランカ政府の方針を支持した。サウジには30万人もの在外スリランカ人がおり、国外最大のスリランカ人コミュニティーを形成している。
 欧州議会(European parliament)の議員5名が2月18日~24日までジャフナを含むコロンボ外の地域の実情を把握するために来訪した。訪問中にはタミル・ムスリム政党を含む政治家や政府高官、国際期間、労働組合、European Chamber of Commerceのメンバーなどとの会見も行なわれた。
 在スリランカ英高等弁務官(high commissioner)のLinda Duffieldはfact finding missionとして東部Ampara-Batticaloaに3日間赴いた。
 内戦とは直接の関係はないが、スリランカはASEANやAPECとの協力関係を希望している。南アジアにはSAARCという地域経済協力会議が存在するが、インドがパキスタンの軍部主導による政治を嫌忌してSAARCサミットをボイコットするなど、機能不全に陥っている。スリランカには宗教、文化的に東南アジアとの親近感もあり、ASEANとの協力関係の中に経済的活路を見出そうとしている。

4.国内政治経済情勢

(1)地方総選挙
 地方総選挙は1年間延期されることになった。これは州評議会・地方自治大臣のEkanayakeによって決定されたもの。理由としてward systemを再度導入するなどの改革が必要であり、議会の特別委員会による調査がなされるため時間が必要としている。地方自治体(local bodies)は全国に311あり、そのうちの14がMunicipalities、39がUrban Councils、残りがPradeshiya Sabhasである。
 UNPは2月15日、政府が野党も延期に賛成していると述べたがそれは事実ではないこと、5年前も選挙延期に制度改革の必要性を訴えながら何も成されなかったことを理由に挙げて、地方選の延期を非難した。

(2)経済の停滞
 国内紛争の一方、市民全般に影響があり、イシュー化しているのが経済問題である。野党第一党のUNPは与党PAの経済政策運営を非難しつづけている。
 スリランカ中央銀行は1月23日、対ドルレートの切り下げを実施し、1ドル=88ルピー(元は85ルピー)となった。政府はこれについて、輸入の増加に伴う当然の結果としている。一方野党のUNP党首のRanil Wickremesingheは与党の通貨切り下げを、マーケットを無視した誤ったタイミングの政策であり、市民の生活コストを著しく上昇させると批判した。24日には中央銀行、市中銀行共に軒並み88を下回るselling rate(例.中央銀行90.90ルピー、Sampath Bank88.70ルピー等)で取引された。これらの影響は食糧などの日用品に現れており、ダール43→47ルピー、砂糖32→34ルピー、乾燥唐辛子88→92ルピー等、1キロ当たりの卸値が2~5ルピー値上がりしている。
 現在厳密な財政赤字はGDPの9.5%、セイロン石油会社等の負債を加えれば12~15%に跳ね上がるとUNPは主張している。ちなみにIMFコンディションは7%である。
 The Ceylon Electricity Boardは電気代が3月1日より25%上がると発表した。またこの2年間に十分な雨水がダムに貯蔵されなかったと述べた。

(3)移住問題
 難民キャンプや友人・親類の家に住む7000名のdisplaced personを北部のいわゆる"high security zone"に移住させる計画がある。タミル政党のTULF議員(ジャフナ選出)は①彼らが自分の住んでいた元の土地に帰りたがっていること、②"high security zone"はそもそもLTTEの侵入を防ぐために設けられた場所であり、危険が伴う、との理由で北部開発省や軍部、さらにはチャンドリカ大統領に中止させるよう働きかけている。それに対しある軍部高官はその土地はすでにLTTEの侵入を防ぐよう方策がとられていると批判した。

以上

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