2004年スリランカ総選挙:日本紛争予防センター選挙監視団派遣
2004/5/6

(投票所風景)
(バブニア地区に派遣された国際監視団員と現地スタッフ)

 「緊急在外活動要員候補者登録制度」に登録していただいている方を対象に、スリランカ総選挙国際監視団員を募集したところ、8名より応募がありました。これに当センター職員2名を加え「JCCPスリランカ総選挙監視団」を結成、当センタースリランカ代表事務所の指揮下、現地NGOであるPAFFREL(自由公正選挙民主運動)が組織する国際選挙監視団のメンバーとして、4月2日の投票日前後、3月27日より4月3日まで監視活動に従事しました。
 実際の活動としては、2日間の事前ブリーフィングを受けたあと、数人1組となってスリランカ各地に派遣され、選挙前後の3日間、現地選挙監視員と協力しながら政党事務所の訪問、警察当局での治安関連情報の収集、選挙民へのインタビュー、投票所・開票所の視察などの監視活動を行いました。以下、参加者9名の所感(報告書から抜粋)を掲載します。


【石井 由希子】
<JCCPがパートナーとしてPAFFRELを側面支援する場面に考慮すべき課題>
 平和構築プロセスへの女性の参加の重要性が近年ますます意識されるようになっている。しかし、今回PAFFRELが作成した総選挙監視報告書の用紙には、各投票所に配置された3人の警察官のうち何人が女性だったか、不正を防ぐため各政党および候補者が投票所に置いたPolling Agentの何%が女性だったかなどを記入する欄がなく、ジェンダーの視点からセキュリティへの配慮や選挙権の行使を検証することができなかった。
 また、PAFFRELはきめこまかい選挙監視を実現するため、コミュニティレベルの活動で地域社会に信頼を築いている現地NGOネットワークとの連携を図った。国際選挙監視員は、派遣先では現地選挙監視員と共同の監視計画がすでに用意されているものと理解していたが、現地監視員はPAFFREL本部から書面ではなく口頭で、監視重点地域の特定と基本的な情報提供についての指示があっただけとのこと。連絡調整が十分とは言い難かった。
 ブリーフィングの内容・方法についても再考を要する。参加者自身に現地派遣後のチーム行動計画を練らせるなどの方法をとれば、参加者に明確な目的を与えて意識を集中させる効果があるし、チーム・ビルディングもできる。世界各国から集まった多様な背景の人々を短期間で効率的に一定レベル以上の選挙監視チームに仕立てるのに、ブリーフィングは鍵となる。


【小塚 千雪】
 私にとって今回が初めての選挙監視活動であり、非常に多くを学んだ。監視活動の第一の目的であるプレゼンスについては、4、5日程度の仕事で選挙関連犯罪に対してどこまでの抑止力となりうるのか、と問われると、非常に限られたものであると認めざるを得ない。しかし、微力ではあるがプレゼンスを積み重ねていくこと、地道な監視活動で選挙人、ローカルスタッフに質問を繰り返すことで自由公正な選挙に何が重要かを伝えることができると考えており、これらの積み重ねが長期的には大きな効果を生むと認識している。興味深かった点は、自国の選挙において監視要員が必要とされる国からも他国へ監視要員が派遣されている点である。こうした活動が、派遣された国の自由公正な選挙に貢献することはもちろん、自国の選挙制度の向上にもよい効果をもたらすことが期待できる。監視要員としての機会が選挙教育の機会にもなるという実例である。
 提言として、国際監視要員のネットワーク化・人材管理の向上を挙げる。アジアには、選挙監視が必要な地域がまだたくさん残っており、国際監視要員の必要性は高い。経験を積んだ要員を確保できるよう、監視団体がネットワーク化を図り、ロスター制度などを充実、人材のプールを共有することが重要である。


【坂下 雅一】
 PAFFRELは、LTTE(the Liberation Tigers of Tamil Eelam; タミル・イーラム解放の虎)が大きな影響力を持つ北部と東部の選挙について、「自由で公正に行われたとはいえない」との評価を下した。東部では数人の候補者と活動家が殺害される事態となり、北部でもLTTEのライバル党はLTTEの支配地域はもちろんのこと政府支配地域でも選挙活動を自由に行えず、支持者が暴力を受けた事案もあったという。それでも平和構築の観点から見るとLTTEがbullets をballotsに代えて選挙に事実上参画した意義は大きい。選挙という純内政的な事案に国際社会が関与する主要な動機の一つは、まさにこのような選挙制度の紛争管理機能に対する期待からであり、今後も武力を用いた紛争から選挙制度の枠内での紛争への切り替えが進むよう国際社会は後押しすべきだろう。
 私見では、南部の選挙に国際選挙監視員を配置する必然性は相対的に薄く、次回選挙では思い切って外国人監視員を武力紛争の影響が残る北部と東部に集中配備してもよいのではと感じた。監視活動上の問題点としては、地元監視員と国際監視員の連携、情報の共有そして問題意識のすり合わせを短期間に進める方法を考えなければならないと感じた。

ガンパラ(首都コロンボの北部)地区国際選挙監視団


【高井 史代】
 今回私が派遣されたジャフナは2つの点で南部の地域とは一線を画していた。1つは、今回の選挙はLTTEが初めてTNA (Tamil National Alliance) という政党を通じて国政に参加するものであり、LTTEコントロールエリアに住む人々が初めて投票に参加したことだ。ジャフナ一帯は政府のコントロールエリアではあるが、あらゆる面においてLTTEの影響を大きく受けている。もう1つは、同じタミル人の間でもLTTE側と反LTTE側の間で争いがあることだ。人々の話を総合すると、ジャフナは微妙なパワーバランスの上に今の平穏さを保っており、表立ってその問題を口にする事ははばかられているとのことだった。選挙は民主主義の根幹をなすものであり、民意を国政に反映させる唯一の手段である。他方で、今回のジャフナのようなケースでは選挙では現れてこない民意もあり、選挙は民主主義の限界も併せ持っているのだと学んだ。
 今回の選挙は全体を通してみれば、連立政権維持への不安、LTTEの内部対立など、和平に向けた道のりはいっそう険しく長いと言わざるを得ないが、選挙を通して垣間見た誠実で働き者のスリランカの人々の国民性や、100名もの国際監視員と14,000名を超える現地監視員を様々な問題はあったにせよ組織する能力を持ち、自国の民主化へ向けた活動を行っているPAFFRELをはじめとするローカルNGOの活動を見ると、将来はそう暗いものではないと思える。


【館野 和之】
 成果としては、選挙プロセスへの中立性の確保の点で、自分の日本人としてのプレゼンスを意識させられる場面が多かった。私が派遣されたトリンコマリーの有権者は、スリランカに最も援助をしている国日本についてどれだけ知っているかは不明だが、自分たち日本人と会うたびに一様に親愛の情を示してくれた。トリンコマリーは度重なる戦乱のために、長く開発の果実を受け取ってこなかった。しかし、それとともに私は一種の猜疑の目も感じた。彼らにしてみれば、将来自分たちのお金がどのような土地に使われるか見に来た、と感じていたとしても不思議は無い。しかし、その意識が、選挙のモラル・サポートにある程度でも資することが出来たならば、今回私がトリンコマリーを訪れた意味もあるのだろう。
 トリンコマリーでは、夜遅くまで買い物をし、フェスティバルに興じている人々の姿があった。それを見ると、2年前に戒厳下にあった町とは到底思えなかった。市民感情からすると、和平への流れを逆流させることは、もはやいかなる強権を持ってしても困難ではないだろうか。今後、紛争後、あるいは紛争後期における平和構築支援に対し、NGOが果たす役割についてより深く考察したい。

人力フェリーから見たトリンコマリー北部の風景


【田辺 圭一】
 PAFFRELは、1988年の大統領選挙を監視する目的で1987年に設立された選挙監視のためのNGO組織であり、その後スリランカでの主な選挙のすべての監視活動を行ってきている。PAFFRELの活動は、スリランカ全土において草の根レベルのネットワークを持つ各組織とのパートナーシップに支えられており、自分が派遣された地区においても地域に根差した強力なネットワークを感じとることが出来た。
 気づいた点として、住民登録システムについて触れておきたい。日本では、住民票を移してさえいれば居住地で投票ができる。ところが、スリランカでは地方出身者がコロンボに生活の実態がある証明として不動産を購入し居住していることが必要である。よって、例えばコロンボに部屋を賃借して住んでいる人は選挙の度に地元に帰って投票する。それでも毎回70数%から80%に達する投票率には驚きを禁じ得ない。住民登録システムの違いとはいえこの点は合理性を欠いておりその改善に着手する必要があると考える。このようなソフト面での技術協力は日本が貢献できる分野と思われる。また、本格的な和平達成後における復興開発計画の策定において重要な基礎データとなる国勢調査の精度向上のために、その実施要領等においても日本の専門能力が貢献できると考える。


【千色 菜穂子】
 今回、選挙が滞りなく行われた最大の理由は、警察が全面的に選挙の平和的実施に協力したからだろう。前回2001年の選挙では、警察そのものが不正の温床だったと聞くが、今回は町の交差点に銃をもった警察官が立ち、政党同士のバッティング等による暴力事件の偶発を抑制していた。その他に、政党トップから暴力沙汰を控えるようにとの強い指示があったことも指摘したい。
 今回、活動中にしばしば考えたことは、「いきなり外国人が来て、選挙監視の名の下に、よその国の政治体制に口を差し挟むことが果たして許されるのか」ということだった。選挙監視活動終了後、この疑問を他のJCCPからの派遣メンバーにぶつけたところ、そこでの答えは、外国人が選挙監視活動をすることで、海外の関心が高いことを当該国民に意識させ、それが間接的であれ、非暴力的な選挙を実施させるならば、我々の活動意義はあるのではないか、というものだった。
 JCCPが選挙監視に海外に人員を派遣するのは今回で3回目と聞いた。各回に参加した人員が選挙監視活動に関する知識および体験を共有できるシステムを作り、次回に繋げることが大事ではないだろうか。


【丸茂 明美】
 今回の総選挙で特筆すべきことは、北東部からの国内避難民も自身の出身地の候補者に投票する機会を得たこと、LTTE支配地域住民も直近の政府支配地域に設置された投票所で選挙権を行使したことである。監視活動の一環として地元警察本部を訪問した際には、「前回に比べて総選挙に関する人員を30%増員して対処している」との話を聞き、今回の選挙の難しさと同時に、政府の意気込みも認識した。選挙そのものの公正さについて疑問が残る事件にも遭遇したが、もとより、自由・公正な選挙が難しいことが予想されたための監視団派遣なので、予想の範囲というところか。今回の総選挙は、PAFFRELが中間報告で述べたとおり、全体としては前回2001年の総選挙に比べ順調に推移したということができよう。私も国際監視団の一員として公正・自由な選挙実施実現に一定の役割を果たすことができたと感じた。JCCPからの監視団は、期間中常に連絡を取り合い協力して活動、10人で合計8箇所への派遣となったため各地の情報も交換でき、この点では予想以上の成果を得ることができた。

事前調査活動(候補者自宅での訪問インタビュー)


【割石 俊介】
「自由で公正な選挙を実現する」という目的から見た外国人選挙監視の意義;
1.中立性
 今回の選挙に対し直接の利害関係を持たない我々の存在はPAFFRELの中立性を高め、結果として同国の自由で公正な選挙に貢献することができる。
2.紛争予防
 監視活動が、紛争の発生を予防する効果を持つと思われる。一例として、現地NGOのリーダーに「我々外国人監視員に何を期待するか?」と尋ねたところ、彼は迷いなく「前回問題が発生した地区を巡回して欲しい」と回答した。暴力行為数の減少は警察体制の強化などの背景があるだろうが、トラブルメーカーに楔を打てたことは多少の効果はあったのかもしれない。
3.相互学習
 今回の国際監視員の中には、自由で公正で暴力のない選挙の実現が自分達自身の課題でもあるというアジア、アフリカ各国からの人たちも相当数いた。選挙監視活動を通じ私が体験したのは、そして私にとっての最も大きな「発見」の一つは、先進国出身、途上国出身という区別を超えてお互いの経験や考えを交換し合い、よりよいものを生み出していく、という相互学習のダイナミズムであった。ここにNGOによる監視活動の最大の意義があるのではと感じた。

カンボジア人、ポルトガル人、日本人による多国籍チーム

以上
(アイウエオ順)

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