カンボジアと民主化
西村 絵里子

今回、私は2003年度のカンボジア総選挙にJCCP(日本紛争予防センター)のボランティア国際監視員として参加し、カンボジア社会の一側面を垣間見る事が出来た。この貴重な経験を踏まえて、「カンボジアの民主化」について感じた事について言及したい。
 

(1)ポジティブな側面
   第一に、カンボジア選挙職員の熱心な態度や、警察が機能するようになった事は、カンボジアで「法と秩序」(law and order) が確立される過程において肯定的に捉えられる。第二に、特に都市部(プノンペン周辺)では、メディアに対するアクセスや自らの意見を表明する機会が確保され、教育を受けた若者の活躍が目立つ。全ての投票所iに国内の選挙監視員(national observers)が2~3名の若者が配置されていた事や、NGO特有の問題を抱えつつも活発な展開をする人権関連NGOiiの存在は、カンボジアの「市民社会(civil society)」の成熟を示唆すると言えよう。第三に、国際監視団(international observer)の受入れや、市民による選挙への積極的参加iiiは、暴力ではなく、「自由・公正な(free and fair)選挙」によって自らの代表を決定するというカンボジア人の強い意思を窺わせる。選挙手続上の問題について、まずCEC(コミューン選挙委員会)に異議申立てをし、CECとNEC(国家選挙委員会)が解決するという選挙法上の手順が機能していた事も、カンボジア民主化の展望を語る上でプラスの要因と考えられよう。最後に、女性選挙職員の存在、幅広い年齢層の女性による選挙参加、若い女性による国内選挙監視員・政党関係者(political agents)としての選挙活動参加の現状は、ジェンダー差別をなくす(gender equality)第一歩である点として評価される。
 
(2)ネガティブな側面
   次に、カンボジア民主化過程において懸念される事項を列挙する。第一に、「都市と地方との格差」である。衛生・教育・生活水準、政治参加への機会、情報アクセス、ジェンダー観点など、あらゆる点で不利な状況に置かれた地方の人々は、村の長(village chief)や地方の権力機関(local authority)による人権侵害に対して為す術を知らず、当然視する傾向にあるiv。第二に、カンボジア社会が、いずれ直面せざるを得ないと思われる、極めて政治的にセンシティブな問題として、「ベトナム少数派(Ethnic Vietnamese)の民族問題」が指摘される。実際、私達は、カンダール州で、2件の“クメール人”対“ベトナム人”の対立を目撃した。大規模な暴動には至らなかったが、明らかにカンボジア社会が抱える潜在的な紛争要因である事には間違いない。第三に、一見、“自由で公正な”選挙の背景に潜む、不公平感・疎外感の助長は、カンボジア社会の不安定、ひいては、将来の暴動に繋がりかねない。例えば、Funcinpec党は、圧倒的な政治力・軍事力・経済力を享受するCPP(カンボジア人民党)に対して、強い不満を感じているv。この点、政党間の公平な競争を実現する為には、カンボジア人自身のみならず、国際社会についても自覚的な行動が望まれよう。特に、用途を問わない大規模な資金援助は、カンボジア社会・政党間に潜む、“構造的な不平等”を促進させる恐れがある。カンボジア支援国家は、現地社会に与える影響(impact)に充分配慮した上で、適切な支援形態を模索する事が不可欠である。
 
(3)評価と展望
   完璧に“民主主義”を達成した国が皆無であるのと同様、実際、完全に“公正・自由な”選挙を実現している国も存在しない。“民主主義”に関して長い歴史を持ち、比較的に“公正・自由な”選挙が行われている欧米諸国であっても、理想の姿に到達する事は極めて困難であり、その為には市民による“不断の努力”が必要となる。
 現在、内戦終結から十年に満たないカンボジアは、民主化過程の初期段階にいる。全般的には、法秩序の確立vi・市民社会の成熟化・教育水準の改善などの観点から、カンボジア社会が民主主義国家として独り立ちする日も遠くないように思える。一方で、地域格差・構造的不平等・少数民族問題等、の困難な課題も指摘される。今後、これらの問題を如何に解決するかが、カンボジアの民主化自体に問われている。この点、当該問題への対応如何では、カンボジア社会が一時的に不安定化する可能性は否めない。暴力ではなく平和的に当該問題を解決できる程度まで、カンボジア社会において民主主義が浸透する事が望まれる。(「暴力の文化」から「平和の文化」への移行)
 私は、約10日間という短い滞在期間ではあったが、カンボジアの平和を真剣に考え、それを担って行こうとする若者達に勇気付けられ、忙しい時期にもかかわらず、丁寧にカンボジア選挙の仕組みについて教えてくれた選挙職員の親切な対応に恐縮し、選挙当日の投票所の人々の活気に驚かされ、辛い過去を背負いつつも一生懸命に生きる人々の姿に感動させられた。“一部の人間の暴力的な行為によって、彼等の平穏な生活が妨害される事は決して許されない。”…そう、強く感じる今日この頃である。
 
以上

脚注:
i
ii
iii
iv

v
vi
注意:私が実際に監視した範囲に限る。
NICFEC, LICHARDHO, 等の現地NGO。
カンボジアの投票率(約80%)は極めて高い。
長期にわたって、カンボジアで調査を行った経験を持つHuman Rights Watchの専門家による調査。
Funcinpec党 のunder secretaryに対するインタビューより。
法に基づく政治・行政が実現過程にある。但し、独立裁判所の設定・裁判官の役割等、「法の支配」に不可欠な要素が未成熟である点も忘れてはならない。

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