カンボジア選挙監視活動報告
杉田 晴彦

  「カンボジアはどうだった?」と聞かれたら、いい人たちと出会えたり、色々貴重な経験もできたり、すごく楽しかったと言える。「選挙監視はどうでしたか?」と聞かれたら、自分の見られる範囲で見てきて、自分にとって興味深いことや勉強になったことがあると言えるが、それが結局何だったのか言えない。それがカンボジアにとってどのように貢献したかはわからない。国際選挙監視員がいることによって選挙時における不正や暴力を防ぐことができるとか、監視員の報告がカンボジアの選挙を改善していくための助けになると聞いたが、自分が今回参加した選挙監視が(自分にとっては意味があったが)カンボジアやそこに住む人々にとってどんな意味があったのかはっきりしない。ここでは、とりあえず自分が行なった選挙監視がどのようなものだったのかを書いてみようと思う。

 7月25日金曜日。この日は各グループに分かれ、1つの政党の選挙キャンペーンを追跡した。自分のグループは、都市部では人気のあるSam Raincy率いるSam Rainsy党を追跡した。しかし、出発後すぐにCPPの選挙キャンペーンに出くわす。初めて見るカンボジアの政党の選挙キャンペーン。政党Tシャツを着、政党帽子をかぶった支持者が(2人 乗り、3人乗りは当たり前)や車に乗り、演説をし、音楽をかけながら道いっぱいに走る。まるでパレード。その列が目の前を通り過ぎるのに15分くらい(以上?)かかる。正直圧倒される。自分の後ろに昼ご飯を食べながら選挙キャンペーンを見ていた子供がいたが、その子も圧倒されたのかぽかーんとした顔をしていた。
 CPPの選挙キャンペーンを見た後、Sam Rainsy党の集会を見に行く。この日、Sam Rainsy党は各地から独立記念塔広場に集合し、そこから大規模なキャンペーンを行なう予定だった。集合場所では、たくさんのSam Raincy党支持者が集まっていた。集まった支持者の多くは地方から来ているらしい。Sam Raincy夫人の登場で支持者の大歓声が起こる。夫人の演説後、Sam Raincy党首が登場。再び大歓声。Sam Raincy党首の「政権とるぞ」コールに支持者たちが一体化する。自分はこの演説を前のほうで聞いていたが、周りの熱狂振りに少し驚きつつ、やはり圧倒された。また、これだけ1つの党を熱狂的に支持するのだから、もし選挙結果が不満足のものであったら何か起こるのではないかと心配にもなった。Sam Raincy党首は演説後、2人の僧から必勝祈願の祈りをしてもらっていた。今回の選挙から僧も投票できるようになったらしい。この演説の後、集まった支持者を含めて町中をパレードする選挙キャンペーンが始まった。
 町中をパレードする選挙キャンペーンを車で追いかけた。党シンボルが蝋燭であるSam Raincy党の選挙キャンペーンのクライマックスは暗くなってからだと一緒に行動したスタッフから聞く。暗くなると支持者は蝋燭に火をつけて、選挙キャンペーンを行なうのだ。自分はそのことを聞いたとき、蝋燭に火をつけて熱狂したり、バイクに乗ったりするのは危険なのではと思ったが、支持者が手に持つ蝋燭らしき物をよく見ると、それはペンライトを蝋燭の形に改造した物だった。夕方再び独立記念塔広場に支持者が集まるという情報があったので、休憩後、蝋燭に灯りがつくのを見に行く。しかし、突然の強い雨が降り出し、自分たちも支持者たちも散り散りに逃げ出す。この雨で選挙キャンペーンも終了だろうと考え、自分たちは事務所に帰る。この日、選挙キャンペーンを追いかけ、何人かの人にインタビューしたが、事件などの問題を見たり聞いたりすることはなかった。

 7月26日土曜日。投票日の前日であるこの日、選挙活動は一切禁止である。前日と比べて町は静かだった。この日は投票所の準備を見に行った。カンボジアの投票所は1ヵ所にいくつもの投票所が集まっている。例えば、1つの学校の1教室ごとに投票所があるという感じである。この日はある小学校の投票所を訪ねた。忙しそうに準備している投票所もあれば、休憩をとっている投票所もあったが、ほとんどの投票所ですでに机などが置かれ準備ができていたように見えた。投票所のチーフに何か問題があるかどうか尋ねたところ、投票日前日に届くはずの投票箱が届いていないと言っていた。

 7月27日日曜日。投票日であるこの日、自分たちのグループはTent River1、Tuol Sleng Primary School、Chak Anre Leu Kindergardenにある計21の投票所を訪れた。有権者の多くが午前中に投票を済ますということだったので、午前と午後の2回、投票所を訪れることにした。
 朝6時半に最初の投票所、Tent River1の投票所に到着した。Tent River1は、名前の通り川沿いにテントが建てられ、その中に6つの投票所があった。そのため投票所は小さく、また前日に雨が降ったせいか投票所前の土は泥になり、歩きにくい。投票が始まる7時までまだ時間があったが、たくさんの人が列を作っていた。選挙って並んで待って投票するものなのかと初めて思う。投票所内を見るとすでに準備は終了し、始まるのを待っている状態だった。投票が始まる直前に空の投票箱を見せる決まりになっていたはずだが、自分たちはそれを見ることはできなかった。自分たちが到着する前に見せていたはずと一緒に行動したスタッフが言っていたが、本当のところはわからない。また、投票所内に喫煙をしている男がいた。ある人がその男に「投票所内では火気厳禁ですよ」と注意したところ、男は「自分は政党代表だ」と答え、無視したらしい。投票が始まると投票所に有権者が殺到。1つの投票所では投票用紙にスタンプが上手く押せず手間取っていた。投票所内には有権者は4人までと決まっていたが、投票所は押しかける人を上手くコントロールできず、投票所内には4人以上が入っていた。次に訪れたのは12の投票所があるTuol Sleng Primary Schoolの投票所。ここでもたくさんの有権者が集まり、人が殺到し、投票所内に入ることができないくらいだった。カンボジアでは、投票所の入口前にその投票所で投票できる有権者の名前リストがある(リストの文字は小さい)。有権者はそのリストの中に自分の名前があるかどうかをチェックするため、そのリストの前には人だかりができる。有権者からの苦情で一番多かったのは、このリストに自分の名前がないというものだったが、これは有権者の注意不足から名前を見落としているものだと聞いた。午前中最後の投票所はChak Anre Leu Kindergardenにある3つの投票所。ここでもたくさんの有権者が集まっていた。3ヵ所訪ねた後、ラッキーバーガーで昼食休憩。
 休憩後、再びTent River1に戻る。午前中の混雑具合が嘘のように人が少ない。投票所のスタッフも暇そうだ。この投票所にずっと滞在していた監視員に何か問題があったか尋ねると、2人の有権者が投票しようとしたらすでに名前がチェックされていたという問題があったと教えてくれた(この問題はNEC(国家選挙管理委員会)のメンバーが来て解決)。また、一人の旅行者らしき人が投票所内で有権者が投票しているところを撮影しているのを目撃した(マスコミならパスを持っているはずだが、その人はパスを持っていなかった)。同じ様にTuol Sleng Primary Schoolも有権者の数はものすごく減っていた。ここでも問題があったかどうかを別の監視員に尋ねたが、有権者が名前を見落とすということ以外にはなかった。Chak Anre Leu Kindergardenでも同じ様に有権者の数は減っている。自分たちはこの投票所で投票時間の終了を待った。ここでは1つの投票所で、投票所スタッフが投票用紙のスタンプを確認せずに投票箱に入れることを許していたということがあった(通常、有権者が投票用紙を投票箱に入れる前に投票所スタッフがスタンプを確認する)。午後3時に投票時間終了し、投票箱の開票センターへの移動を待っているとき、1人の有権者が自分たちに話し掛けてきた。彼はCommune Chiefから投票時間は午後5時までだと知らされていたために投票時間に間に合わず、投票ができなかったと言っていた。投票箱がバイクに載せられるのを見て、事務所に戻った。
 この日の午後、Tent River1からTuol Sleng Primary Schoolに移動中、王宮前で人だかりに出くわした。なんでも爆弾騒ぎがあったらしく、そのため人々が集まっているということだった。自分たちのグループは王宮前で車を止め、その人だかりに行ってみると、警察官が両手に手榴弾を持っていた。彼は手榴弾を手に持ったままパトカーで去っていった。この後、FUNCINPEC党本部前で爆発事件があったと聞いた。これらの爆弾事件では死傷者はいなかったようだが、このような危険な状況に何も考えずに入ってしまったということを反省した。

 7月28日月曜日。開票日。この日、Preah Norodom Primary Schoolにある開票センターを訪れた。午前7時から開票作業開始。しかし、なかなか作業が進まない。開票所スタッフはどこにどの書類があるのかわからず、1つずつ確かめながら作業しているようだった。10時半すぎに開票が始まる。Chiefが1票ずつ取り出して投票された政党の番号を読み、Assistantが黒板にチェックしていく。時間のかかる作業。途中、少数政党に連続で投票があり、開票センターがどよめく。その後、なにも問題がないまま作業が進み、自分は開票が3分の1終わった12時半で開票センターを後にした。

 これが自分の行なった選挙監視だ。これが選挙監視で自分が経験したことや感じたこと全てだとは言えないが、ある程度見たことや聞いたことは書いたと思う。「選挙はどうでしたか?」と聞かれれば、自分が見て聞いた範囲ではカンボジアの選挙は大きな問題はなかったということができる。今回の選挙は、自分が本などから情報を得た前回の選挙より前進していると言えるかもしれない。もちろん、自分の見ていない地域の選挙や選挙制度自体の問題もまだあると思う。しかし、これからの政治によるが、選挙を真剣に考えるカンボジアの人々やたくさんの国内監視員を見ると、カンボジアはもっと前進していくかもしれないと感じた。そして、自分には実感はないが、もし何かしらのことで今回の選挙監視がカンボジアにとって意味があるならうれしく思う。自分は今回の選挙監視が初めての選挙監視だった。そんな素人の自分に色々と教えてくれ、助けてくれたJCCPスタッフや選挙監視団メンバー、本当にありがとうございました。

以上 

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