カンボジア選挙監視活動報告
大口 修平

 私は大学・大学院と国際政治を専攻し、特に国連による平和維持活動(PKO)の歴史及び問題点に関心を抱いてきました。現在は政府開発援助(ODA)に係るコンサルタントとして奉職しています。選挙監視活動は私にとって初めての経験であり、その過程で多くの発見がありました。ここでは、選挙監視活動の詳細は割愛させていただくとして、いくつか気付いた点をまとめさせていただきます。

・ふたつの「非日常」と異なる視点
選挙監視という活動は、参加するものすべてにとって同じではない
 選挙監視のためにカンボジア入りした人々にとって、選挙監視は「非日常」である。また、総選挙は政治活動のクライマックス(5年に一度)であり、カンボジア国民にとっても「非日常」である。選挙監視はこのようなふたつの「非日常」が交錯する場であり、独特の緊張感に包まれている。
 選挙監視を行うのは、国際監視員(international observers)だけでなく、現地監視員(national observers)及び 登録された政党関係者(party agents)も含まれる。従って、「純粋に選挙を監視する」人ばかりでなく、「自分が投票した選挙を監視する」人も混在している。
 1993年、1998年の総選挙或いは2002年のコミューン選挙の監視経験者にとっては、同国の過去の事例という比較すべき対象がある。また、カンボジアでなくとも、東チモールなど他国での選挙監視経験者にとっては、自分の経験との比較が可能となる。もちろん、選挙監視初心者にとっては、文書・伝聞でしか「比較」することはできない。

「制度」と「参加」?民主主義の内実
「自由で公平(free and fair)」な選挙は実現可能か
 今回の総選挙では、前回と同様に政党に対する投票がなされ、選挙区ごとの獲得票に応じて議席が配分されるという方式がとられた。実質的には人民党(CPP)、フンシンペック党(FUNCINPEC)、サム・ランシー党(Sam Rainsy)の三者の争いであったものの、選挙に参加した政党数は20余に及び、活発な選挙キャンペーンが繰り広げられた。前回選挙に比べれば見劣りはするが、投票率も80%前半の高いものであった。
 プノンペン市内において私が監視し、他の監視員から情報を得た限りにおいては、監視員及び登録された政党関係者が立ち会ったことで、投票と開票プロセスは信憑性の高いものであったと考える。他方で、NICFECやLICARDHOといった現地NGOやHuman Rights Watchからの情報によれば、農村部において明示及び黙示的な選挙妨害が行われているということであった。
 NGOが掲げる「自由で公平な」選挙の実現は理想ではあるものの、諸般の事情か早期の実現は困難であろう。重要なのは、政治的自由を保障する「制度」が明文化され遵守されていること、そして政治活動への「参加」が公平に認められていることである。政治活動への「参加」は、選挙への投票だけを指すものではないことはいうまでもない。むしろ、選挙によって信任された政治家とその国家運営のあり方を監視する市民社会の緊張関係こそが、カンボジアの民主主義を育てていくのではないかと思う。その意味で総選挙は祝祭であり、端緒に過ぎないのである。

「クメール」から「カンボジア」へ
カンボジアという国のあり方をどう考えるか
 カンダール州などで、ベトナム系住民の投票行動を妨害しようとする選挙違反が報告された。なぜこのような事件が起こるのかという質問に対して、クメール人からは「カンボジアはクメール人のものである」という趣旨の発言がしばしば聞かれた。選挙は、「ナショナルであること」を強く意識させるという意味で、カンボジアという国家への帰属意識を高めることになる。周辺国の利害に影響され、苦渋を嘗めてきたカンボジア史を考慮すれば、クメール人の団結の重要性は明らかであり、総選挙に際してこのような感情が行動となって表現されることは理解できなくもない。
 このような自国の文化、言語、歴史への誇りは歓迎されるべきものかもしれない。しかし、それが排外主義に繋がってしまうとすれば残念である。時間の経過とともに、カンボジアを支えているのはクメール人を中心とした「国民 national」だけではなく、カンボジアで生活を営む非クメール人も含めた「市民 citizen」であり、従って市民権を持ったマイノリティにも投票が認められて当然であるという意識のシフトが起こってくるのではないかと期待する。そのときこそ、カンボジアが過去の傷跡を克服し、内実を兼ね備えた民主主義国家としての新たな歴史を刻み始めるときではないかと思う。

 最後になりますが、選挙監視という貴重な機会を与えて下さった日本紛争予防センター東京本部及びカンボジア事務所の方々、本当に有り難うございました。

以上 

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