| 概要 2003年7月27日、カンボジア国民議会選挙が実施された。投票は全国約12,500ヶ所の投票所で、朝7時から午後3時まで行われ、その翌日に開票が実施された。最初の選挙は1993年に、国連統治(UNTAC)の下で実施され、今回は3回目となる。 日本紛争予防センター(JCCP)では、日本からの選挙監視員と現地参加を加え、15名のJCCP選挙監視団を結成し、短期選挙監視を実施した。その活動は、投票所やその周辺で投票が正しく行われるか、また妨害が行われていないか、そして開票、集計が公正に行われるかを監視することである。また、選挙運動期間中の各政党の街頭、集会所などでのキャンペーン活動の様子、政党同士の衝突、妨害行為、政府・警察の対応、マスコミのチェックなど、さらには表には出にくい選挙違反(例えば強要、買収、供応、紛争、当局の過剰介入など)についてもインタビューによる調査を行った。 今回のカンボジア選挙監視を通じ、選挙監視の意義について考えさせられた。以下、簡単に触れることにする。 国際選挙監視の役割とは? 国際選挙監視は長期にわたって実施するのが望ましい。長期にわたる監視であれば、より効果的な監視・検証・評定が可能である。しかし、短期選挙監視では、実質上、精密な検証は難しい。また、展開地域については国内の一部地域だけに監視チームを展開した場合、その一部のデータを取り出して選挙を評価するのでは、評価そのものが正当であるか疑問を差し挟まれる余地がある。こうした様々な制約の中で、短期国際選挙監視の意義は、限られた時間、限られた地域の中において、国際社会のプレゼンスを示すことを通じて、不正行為のディスインセンティブをあたえることにあると言われる。しかしながら、このような抑止効果は目に見えてあらわれるわけではない。 民主化の支援・促進とは? 選挙監視による不正抑止効果は目に見えてあらわれるわけではないが、その一方で、明確にその効果を期待されてしまう場合がある。選挙管理委員会の信頼性が高い場合(国連、OSCEなどの機関が選挙を直接管理している場合)、選挙監視員が選挙に対してコミットする要素は少ない。他方、選挙管理委員会の信頼性が低い場合(独裁体制下、紛争直後など、住民から国内機関が信頼を得ていない場合)、選挙監視ミッションに対して住民からの期待は高まる。このように抑止効果、すなわち国際選挙監視による介入への期待度は選挙の実施主体の信頼性に大きくかかわっている。この結果、開票において、国際監視員が開票プロセスの一部を担うことを求められたり、投票終了から開票までの投票箱の保管状況の監視までを求められたりしてしまう。もっとも、これは選挙プロセスへの不介入という原則との抵触が発生するため、ミッションとしてどこまで踏み込むのか判断が微妙である。 民主化の基本問題 民主化支援、その一側面としての選挙協力であるが、今回カンボジアの選挙監視では、その難しさを改めて認識させられた。カンボジアのコミューン・レベルでは、地域構成員間の結びつきが強い。この結びつきの強さは、歴史的に社会主義政権時代から続く一政党の権力構造とも相俟って、自由かつ公正な選挙の実施の障害となるケースが見られる。 個人の尊厳と平等を根本原理として、自由かつ公正なやりかたで政治的意思決定に個々人が参加すること、それが民主主義の要諦である。しかし、現実を見れば、個々人の自由、尊厳が確保されない中で、形式上の「自由かつ公正な」選挙を追求したところで限界がある。具体的に言えば、村落のリーダーが共有の井戸の使用を盾に、村民の投票行動に制限を加えることは容易に起こりうる。これを防止し、自由かつ公正な選挙を実現させるために地域の構造を是正するには、各家庭にまで上下水道を行き渡らせるなど、個々人の経済的な発展のレベルを全体的に底上げさせ、不当な干渉が行われないようコミュニティの結びつきを解体させるか、あるいは、国際選挙監視員を長期にわたって、隅々のコミューンにまで張り付かせ、監視の目を強める以外に方法はないだろう。これは極めて困難である。 あるいは、カンボジアの各家庭内において、女性の投票行動に対して夫の意思が反映されてしまうケースについて、それを受け入れてしまう文化的問題にはどう取り組めばよいのか。徹底した男女の平等を導入し定着するまで、民主化を達成したとはいえないのか。それはカンボジアに対する押し付けにはならないのか。民主化に関連して、大きな疑問や限界を感じざるを得なかった。では、民主化にまつわる大きな疑問を有しつつも、選挙監視にはどんな意義があるのだろう。 平和構築、選挙「協力」としての監視活動 民主化とは、「程度」、あるいは「度合い」の問題である。民主化の度合いを高めようとする以上、選挙「協力」としての選挙監視は論理必然的に介入の要素を持ち行動原則としての「中立性」との緊張関係を持っている。つまり、監視結果を公表し改善を求めること、プレゼンスを示すことで抑止というインパクトを与えることは、厳密な意味において「中立性」を阻害しているとも言える。 しかしながら、少なくとも紛争下にあった社会においては、紛争予防・再発の防止のために、政治的な対立を暴力的紛争に転換させることなく平和的な社会的政治的な変革を実現させる体制・メカニズムが必要である。そのため平和構築にむけたグッド・ガバナンスの確立、民主化支援が重要であり、こうした目的のもとで、その一方策として選挙協力は位置付けられてきた。 このように考えてゆくと、「平和構築」に力点をおいた選挙協力、その一環としての監視活動、すなわち紛争後の、選挙を経験していない社会における選挙監視では、「中立性」や「不介入」の原則との緊張を含みつつも、「協力」の要素に着目したい。 今回、JCCP選挙監視チームには、カンボジア人スタッフが国際選挙監視員として参加した。彼らは通訳や運転手といった地位でなく、国際選挙監視員としてのマンデートを持ち、国内選挙監視員とは異なる業務に従事することとなった。質問表の作成や、ブリーフィング、デブリーフィングでは、日本人スタッフがどのような点を問題視するのか、カンボジア人スタッフはどの点を問題視するのかについて相互に理解を深めることが可能となる。同様の業務に対して、異なる立場の人間が協力して取り組むことで、共通の目標である「自由で公正な選挙とは何か」について相互に学習効果が生まれる。 また、市民へのインタビュー調査の際には、インタビューという行為そのものによって、またはあえて質問表をみせることによって国際監視員がどういうことに関心を持っているか示すことが出来る。インタビューされた側は、それを意識し不正行為を是正することにもつながる。これは、一面では抑止効果といえるかもしれないが、抑止というよりは正当な方法の促進という意味合いを含んでいる。また、質問表を公開することで、実態にそぐわない質問の修正にもつながる。こうして相互に影響を与え合うことも可能となる。 実施された選挙がどれだけ自由かつ公正であったかを評価すること、プレゼンスを示し不正行為を防止することにとどまらず、監視する側とされる側の相互に民主化について学び協力してゆくことが重要である。そのことを通じて、紛争後の社会に平和的な社会的政治的な変革を実現させるような体制・メカニズムを作り出すことに少しでもつながればよい。 カンボジアは3度目の選挙を終え、人々の政治的意思決定プロセスへの参加の経験値も徐々に高まってきた。その一方で状況が変わっていかなければ、民主化の希望はしぼんでしまうかもしれない。前回、前々回に比べて若干低下した投票率が民主化への諦めを示したものでないことを願うばかりである。 以上 |