第15回研究会

開催日時2008年8月28日(木)
タイトルスーダン・ダルフールにおける国内避難民(IDP)保護:現状と課題
講師帯刀豊氏 (UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)
スーダン・ダルフール(Habilla地区)事務所 難民保護担当指揮官
参加者数35名(自衛隊関係者、大学関係者、NGO関係者他)



堂之脇光朗理事長 冒頭挨拶

 昨日、アフガニスタンで活動していたペシャワール会の伊藤和也さんが殺害されるという大変不幸な事件が報道されました。この事件を受けて、紛争予防・平和構築活動の努力がますます必要だと強く感じております。そのような状況下、本日は一昨年からスーダン・ダルフールのUNHCRで働かれている帯刀豊さんからスーダンの現状、現場の実情についてお話を頂きます。

【講演内容】

 先日、ICC(国際刑事裁判所)検察官がスーダンのバシル大統領の逮捕状を請求しました。現職の大統領の訴追判断が下されれば、スーダンに大きなインパクトを与えることになります。検察官による逮捕状請求がなされた現段階ですでにスーダンの国内情勢が悪化するとの見方があり、UNHCRやNGO、他の国際機関にも活動面で影響を与えました。この影響は年末まで続くと思われ、今後も注意を払う必要があります。そのような状況下で、UNHCRは現在ダルフール全域で活動を行っています。本日はUNHCRのスーダンでの活動、現在の問題点、今後の課題についてお話します。

 アラブ系対アフリカ系の対立の他に、スーダン・ダルフールを不安定化している要因を二点挙げることができます。一つ目は隣国チャドとの関係です。スーダン国内ではアラブ系が支配者層、アフリカ系が被支配者層なのに対し、チャドではアフリカ系が支配者層、アラブ系が被支配者層です。そのようなねじれの現象のため、チャド国内からダルフールのアラブ系武装勢力を支援するための人員が流入してきています。そのため、国境地帯の警備が重要です。また、過去1年間で天候が悪く、農作物の収穫が激減してしまったため、食料不足が起きています。紛争とは別に生活環境の悪化で逃げる人も出ています。

 そのような状況下、UNHCRは難民保護、人道支援をミッションとして活動をしています。一口に難民と言っても、IDP(国内避難民)と難民とに大別されます。現在、2百万から3百万のIDPがダルフールに存在すると言われており、ダルフールではIDPを主に支援してきました。また、チャドからの難民、かつてチャドへと逃げ、スーダンに帰還する帰還民についても保護を行う必要があります。ただこちらは難民のバックグラウンドが複雑で、2003年の状況の悪化による深刻な人権侵害のために隣国チャドに逃げた人もいれば、20年前にチャドに移動・避難した人もいます。また、避難民とは別に農作時期に合わせて、チャドとスーダンを行き来する人もいます。そのため、どのように難民や帰還民を認定し、対応するのか、慎重に考える必要があります。

 難民とは別に、生活上の理由等で、避難はしないけれど、紛争により危険に晒されている住民もいます。そのため、それらの人々の保護、支援をどの機関が担当するのか、という問題があります。

 このような状況下、その他の国連機関等との連携は重要な課題です。現在、国連機関間での所謂クラスターアプローチとしての連携は公式には行われていませんが、現場レベルでの調整、協力は行われています。例えば、上記で挙げた様々な理由で自分の家から離れることのできない住民に対しては、WFPやUNICEF、UNHCRといった緊急援助系の機関が支援のあり方を検討しています。

 また、人道と政治を切り離す必要があります。UNHCRは人道支援機関であり、政治についての立場を示すことはありません。ただ、政治性を伴う活動を実施する機関と連携することにより、IDPからUNHCRはスーダン政府を支持していると誤解されることがあります。例えばUNAMID(ダルフール国連AU合同ミッション)。UNAMIDは、政治プロセスの支援、和平合意の履行の監視を主なミッションとしている機関で、政治色を帯びています。UNHCRが保護を行っているIDPの中には、スーダン政府に反旗を翻しているアフリカ系武装勢力を支持している人達も多くいます。そのような人達が政治的な活動をキャンプ内外で行うこともあります。そのため、UNAMIDと連携することにより、彼らからUNHCRは政府をサポートしていると誤解され、IDPキャンプ内での活動が難しくなることがあります。UNHCRと政治とは関係のないことを明示することが必要になります。

 そのような状況下でIDPキャンプ内に警察等の政府関係者を立ち入らせることは困難です。しかし、これにはIDPキャンプ内の治安悪化という問題があります。治安維持の責務を担うUNAMIDが未だ十分にその機能を果たせていないため、治安の確保が難しい状態です。

 IDPキャンプの他の問題としては、IDPでない周辺住民を引き付けてしまう、ということが挙げられます。難民キャンプの運営が長期化してくると施設がそろい、生活水準が向上してきます。また、さまざま国際機関が活動を行っているため、教育の提供等、キャンプの外で暮らすより良い生活が送れるという評判が立ちます。そのため、そのような生活を求めて、治安に関する保護の必要のない人達もキャンプに集まってきてしまいます。

 「IDPキャンプ」というのは一時的な避難所であり、長期的な解決としては、IDP・難民が無事帰還を果たすことが必要です。そのため、キャンプに難民を引き付ける要因を減らそうという配慮が議論されています。安全がある程度確認された地域では、戻ることを希望するIDPには帰還を受け入れ、村で食料等の支援を行う、という考え方もあります。問題としては、保護の観点から安全の確保をどうするのか、という点があります。

 また、最終的に帰還を果たすことを目標としていても、物理的にIDPが帰還できない場合もあります。住民が避難して、誰もいなくなった村にアラブ系住民が住み着いてしまうケースが見受けられます。避難した住民は、紛争で身分証明書や家の所有に関する文書を失くしているため、政府として紛争の被害を補償することが難しくなります。そのため、スーダンの状況が好転し、帰還が本格的に始まる段階で、土地の所有・占拠、身分の証明が大きな問題となる可能性があります。

スーダンで活動する上での課題としては、
(1)安全の確保 (2)地理的要因 (3)人道機関とUNAMIDとのコーディネーションが挙げられます。

(1) 安全の確保
物資の強奪目的で国際機関の職員がアラブ系、アフリカ系の武装勢力に襲われる事件が起きています。ICC検察官がバシル大統領の逮捕状を法廷に請求したという状況下で、支援活動に関わる人員の安全をいかに確保するか、というのが大きな課題となっています。

(2) 地理的要因
アラブ系とアフリカ系の支配者層と被支配者層が逆転しているチャドから、それぞれの民族の支援目的で人の流入が多くあります。そのため、スーダン国内の政治だけではなく、長期的な解決のために、チャドとも国政レベルで問題を解決する必要があります。

(3) 人道機関とUNAMIDとのコーディネーション
UNAMIDは2008年の初めから本格的なオペレーションを開始しました。大別して治安維持・警察機能及び人道支援の2つのミッションを持っています。治安維持・警察機能を主としていますが、国連決議で承認された要員規模、26,000人には未だ遠く及ばず、10,000人以下の人員でミッションにあたっているのが現状です。また、現在武装した警察要員がいないため、治安維持部隊としての機能をうまく果たせずにいます。機能面とは別に、UNAMID人員のモラルの低さも指摘されることがあり、IDPからもUNAMIDは不要だ、という声が聞こえることもあります。そのため国連機関、NGOからは過剰な期待の裏返しとしてUNAMIDに対する不信感が募っており、UNAMIDとの軋轢が生じています。

 UNAMIDのもう一方のミッション、人道援助においても問題が生じています。それぞれの機関が担当分野を持っているため(例えば、UNHCRは難民保護、UNICEF(国連児童基金)は子供の保護)、UNAMIDの人道援助ミッションと重複があり、調整、協力の必要が生じています。UNAMIDとの間に限らず、それぞれの機関が異なるマンデート、異なるファンディングを持っているため、あまり協調が見られないこともあります。スーダン国内ではUNHCRを始め、国連を始めとする主だった国際機関、国際NGOは全て入っていると言って過言でない程、さまざまな機関がスーダンで活動を展開しております。そのような状況下で、いかに情報を共有し、目標のすり合わせを行い、協働するか、が効果的な人道支援活動、難民・IDP保護を行う上で課題となってきます。

【質疑応答】

Q1.キャンプ内で殺人等の犯罪が起きた時にどのような法的措置を取るのでしょうか?
A1.政府の警察に通報することを基本的に奨励します。UNAMIDが政府の警察機関をバックアップし、協調する任務を担っているので、UNAMIDを通じて、スーダン政府の警察が調書を取り、事件として処理するよう促します。ただ、通報をしたけれど、警察としてきちんと対応しないケースが見受けられます。多くはないけれど、警察がきちんとした措置を取ったケースもありますので、そのようなケースを一つ一つ積み上げていくことが大切だと考えます。また、IDPのなかには、政治的理由から警察等、政府の機関の介入を嫌がる者がいます。犯罪が起こった時は相応の措置を取る、という態度を示すと同時に、UNHCRが政治的に政府、警察と協働しているわけではないことをIDPキャンプ内の住人に知らせることが重要です。

Q2.犯罪が起きた後にキャンプの中が不安定になるかと思いますが、どのように対応するのでしょうか?
A2.確かに不安定にはなりますが、暴動が起こるようなことはありません。IDPキャンプ内の住人もなぜその人が殺されたのか、等の問題を理解しているので、犯罪が起こったからといってキャンプ内の秩序が崩壊するということはありません。ただ、各グループのリーダーにUNHCRのポリシーを伝え、それを住民に再確認してもらいます。

Q3.現在の反政府組織の状況について、お教えください。大きな組織がいくつかあるだけなのでしょうか、それとも小さな組織が無数に存在する状況なのでしょうか?
A3.以前は2,3の反政府組織があるだけでしたが、現在は分裂をして、数え方にもよりますが、10を超える組織が存在します。中には、政府に反旗を翻したアラブ系の武装勢力と連携して活動を行っている組織もあります。

Q4.UNHCRの活動として成果の見える側面は?
A4.定量的に示したいが、現地の状況からなかなか明示することが難しいのが現状です。ただ、人道支援の方では、数量的に見ることができると思います。例えば、緊急のシェルターを確保する、壊れた家を直す等、基本的な生活環境を援助するという意味では成果を定量的に見ることができます。

Q5.ICCの現職大統領の訴追により、ダルフール以外の地域でも治安の悪化が見られるのでしょうか?
A5.現職大統領の訴追というのは、スーダン全体の問題ですので、全域で不安定化を見ることができます。農村部でというよりは、政治の影響がより強い都市部での方が治安の悪化が見られるかもしれません。

Q6.スーダン政府は信頼に値する政府だと思われますか?
A6.スーダン政府の姿勢を考えると、アフリカ系住民を更に苦しませようという半人道的な明確な意図は見られず、国連・西洋社会に強い敵対心を持っているわけでもないので、約束を全て反故にする、という極端な態度を取ってくるとは思われません。ただ、国の主権・プライドがあるため、国としてのオーナシップを示すうえで国連等の国際機関の活動に非協力的となることはあります。スーダン政府としては、難民問題等は政府が解決すべき責任を担っている、国際機関は国内の機関、NGOのキャパシティ・ビルディングに注力して、順次出ってくれ、という姿勢を取っています。

Q7.難民の自立性を高めるプログラムとしてはどのようなものをキャンプ内で実施されているのでしょうか?
A7.IDPキャンプ設立当初からコミュニティの自立を高めるためのプログラムを実施しています。女性の自立を促すための委員会、所得創出のためのプログラム等があります。住民同士が教育し合い、コミュニティの中で活動をまわすようにしています。また、今年に入って、コミュニティによる自警を促す支援活動ができました。

Q8.治安の悪化は頻発するのでしょうか?
A8.以前ほどではないけれど、争いはまだ続いています。最近でも、ダルフール内で武力衝突や爆撃の情報が得られています。

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